【中小企業向け】初めての越境EC、なぜ売れない?経営者が確認すべき原因と対策
越境ECへの挑戦は、中小企業にとって新たな市場を開拓し、事業を拡大する大きなチャンスとなり得ます。多くの経営者様が期待を胸に第一歩を踏み出されることでしょう。
しかし、実際に越境ECサイトを立ち上げ、運用を始めたものの、「なかなか注文が入らない」「売上がゼロの状態が続いている」といった壁に直面し、不安を感じていらっしゃる経営者様も少なくないかもしれません。
この状況は決して珍しいことではなく、多くの事業者が越境ECの初期段階で経験するものです。重要なのは、感情的にならず、冷静に状況を分析し、適切な対策を講じることです。
この記事では、初めて越境ECに取り組む中小企業経営者様に向けて、なぜ注文が入らないのか、考えられる主な原因とその確認方法、そして経営者として取るべき行動について、分かりやすく解説します。
越境ECで注文が入らない時に、まず経営者が確認すべきこと
越境ECサイトで注文が入らない場合、考えられる原因は多岐にわたります。しかし、闇雲に対策を打つのではなく、まずは冷静に現状を把握することが重要です。経営者として、以下の点を担当者(または外部パートナー)と共有し、確認してみてください。
- 越境ECサイトを公開してからの期間: 越境ECは国内ECと比較して、認知度向上や信頼獲得に時間がかかる傾向があります。サイト公開からまだ日が浅い場合(例えば数週間~数ヶ月)、すぐに大きな注文が入らなくても焦る必要はありません。市場に自社の存在を知らせ、信頼を築くための段階であると理解しましょう。
- 当初設定した目標: 越境ECを開始するにあたり、どのような目標を設定しましたか?(例:半年後に月商〇円、1年後に〇件の注文獲得など)。その目標設定は、市場規模や競合状況、自社のリソースに対して現実的なものだったでしょうか。非現実的な目標を設定していると、現在の状況を過度に悲観的に捉えてしまう可能性があります。
- 現状に関する客観的なデータ:
「売れていない」という事実だけでなく、サイトのアクセス状況など、具体的なデータを確認することが非常に重要です。
- アクセス数: そもそもどれくらいの人がサイトを訪れているか?
- アクセス元の地域: ターゲットとしていた国・地域からのアクセスがあるか?
- 流入経路: ユーザーはどこからサイトに来ているか?(検索エンジン、SNS、広告など)
- サイト内行動: ユーザーはサイト内でどのようなページを見ているか?商品ページは見られているか?カートに商品を入れているか?
- 離脱率: どのページでユーザーがサイトから離れてしまっているか?
これらのデータを確認することで、問題の所在がおおよそ見えてきます。「集客ができていないのか」「集客はできているがサイト上で購入に至らないのか」など、次のステップで原因を深掘りするためのヒントが得られます。
注文が入らない:考えられる主な原因と経営者のチェックポイント
データを踏まえ、注文が入らない原因として可能性が高いものをいくつか掘り下げ、それぞれについて経営者が確認すべきポイントを整理します。
原因1:サイトへの「集客」が不足している
サイトへのアクセス数が極めて少ない場合、この原因が考えられます。海外の顧客に自社の存在や商品をまだ知られていない状態です。
- 考えられる理由:
- ターゲット市場の顧客が利用する検索エンジンやSNSで表示されていない。
- ターゲット顧客に届くような広告やプロモーションを行っていない。
- 現地のメディアやインフルエンサーへの露出がない。
- 経営者が確認すべきこと:
- 集客目標と戦略の妥当性: 設定した集客目標(例: 月間アクセス数〇件)は適切か? その目標達成のための具体的な戦略(海外SEO対策、海外向け広告、SNS運用など)は策定されているか?
- 集客施策への投資(時間・費用): 集客のために十分な時間や費用を投資できているか? 予算配分は適切か?
- 外部パートナーの能力: 集客施策を外部に委託している場合、そのパートナーはターゲット市場における集客の知見を持っているか?
対策のヒント: ターゲット市場に合わせた海外SEO(検索エンジン最適化)、Googleや現地の検索エンジン・SNSでの広告出稿、ターゲット層が多く利用するSNSでの情報発信、現地のインフルエンサーやメディアとの連携などが考えられます。ただし、これらは専門知識が必要な場合が多く、コストもかかります。どこまで自社で行い、どこから外部に委託するか、費用対効果を考慮した経営判断が必要です。
原因2:集客はできているが、サイト上で「購入」に至らない
サイトへのアクセスはある程度あるにも関わらず、購入や問い合わせといった成果(コンバージョン)につながらない場合、サイト自体に問題がある可能性が高いです。これを「コンバージョン率が低い」と言います。
- 考えられる理由:
- ローカライズ不足: サイトの言語が不自然、通貨や単位が現地に合っていない、デザインやレイアウトが現地の商習慣や文化に合わないなど、「ターゲット顧客にとって使いにくい」「信頼できない」サイトになっている。
- 商品情報の不備: 商品説明が分かりにくい、量が少ない、写真や動画が不足している、現地の顧客が知りたい情報(サイズ感、使用方法、原材料など)が書かれていない。
- 決済・配送方法の不便さ: ターゲット市場で一般的な決済手段が利用できない、送料が高い、配送期間が長い、追跡ができない、関税や消費税の表示が不明確。
- 信頼性の欠如: 会社の情報(住所、電話番号など)が不明確、セキュリティ対策が十分でないように見える、顧客からのレビューや評価が見当たらない、問い合わせ先が分かりにくい、サポート体制が不十分。
- サイトの技術的な問題: サイトの読み込み速度が遅い、スマートフォンで表示が崩れる、操作が難しい、エラーが発生する。
- 経営者が確認すべきこと:
- ローカライズ戦略の再評価: ターゲット市場の顧客が何を重視し、どのような情報提供を求めているかを再調査し、サイト内容(言語、通貨、単位、画像、デザイン、文化的な表現など)が適切にローカライズされているか?
- 商品情報の質: 商品説明、写真、動画などが海外顧客にとって魅力的で分かりやすいか?必要な情報が網羅されているか?
- 決済・配送方法の選択肢: ターゲット市場で一般的な決済方法(クレジットカード以外にPayPal、現地の電子決済など)を提供できているか?配送料は現実的か?配送にかかる期間や関税に関する情報は明確に表示されているか?
- サイトの信頼性: 会社概要、特定商取引法に基づく表示(海外向けに必要な情報を含む)、セキュリティ対策、問い合わせ方法などが明確に表示され、顧客が安心して利用できる設計になっているか?顧客からのレビュー機能を導入できないか?
- サイトパフォーマンス: サイトの読み込み速度やスマートフォンでの表示に問題はないか?必要に応じて専門家やツールで診断したか?
対策のヒント: ターゲット市場の顧客目線でサイトを徹底的に見直す「ローカライズの深化」が必要です。翻訳の質向上はもちろん、決済手段の拡充、最適な配送方法の選定、送料表示の改善、関税に関する情報提供の明確化などが求められます。また、信頼性を高めるために会社情報を詳細に記載したり、カスタマーサポート体制を整備したりすることも重要です。これらには追加のシステム導入や契約、コストが発生する場合があるため、費用対効果と優先順位を考慮した経営判断が必要です。
原因3:そもそも「市場」または「商品」選定が適切でない
アクセスも少ない、またはアクセスがあっても購入に至らない、といった状況が続く場合、そもそも選定したターゲット市場に自社商品に対する大きな需要がない、あるいは競合が非常に強い、といった根本的な問題がある可能性も考慮に入れる必要があります。
- 考えられる理由:
- 選定した市場に、自社商品と同じ、あるいは類似の商品がすでに多数流通しており、価格競争力が低い。
- ターゲット市場の顧客のニーズと、提供している商品が合致していない。
- 市場規模が小さすぎる。
- 現地の法規制や商習慣により、商品が受け入れられにくい。
- 経営者が確認すべきこと:
- 当初の市場調査の再評価: 越境EC開始前に実施した市場調査(市場規模、競合、顧客ニーズ、法規制など)は正確だったか? 最新の情報と比較して状況は変わっていないか?
- 商品の競争力: 自社商品は、ターゲット市場の競合商品と比較して、価格、品質、機能、デザイン、ブランド力などでどのような強みを持っているか? その強みは顧客に伝わっているか?
- 撤退基準の設定: 越境ECへの投資が無駄にならないよう、どのくらいの期間で、どのような状況になったら、その市場からの撤退や戦略変更を検討するか、事前に基準を設けていたか?
対策のヒント: 市場や商品の選定に根本的な問題がある場合、対策は容易ではありません。再度徹底的な市場調査を行い、別のターゲット市場を検討する、あるいは現行商品の改善や新商品の開発を検討する必要があります。場合によっては、選定した市場からの「撤退」も経営判断の一つとして冷静に検討する必要があります。これは困難な判断ですが、損失を最小限に抑え、新たな機会にリソースを投入するために必要な場合もあります。
経営者が取るべき次のステップ
注文が入らないという状況に直面した場合、経営者としては以下のステップで対応を進めることをお勧めします。
- 状況とデータの共有: 担当者や外部パートナーと現状のデータを共有し、「何が起きているのか」を客観的に把握します。感情論ではなく、データに基づいた議論を心がけます。
- 原因の特定と優先順位付け: 考えられる原因の中から、データやヒアリングに基づき、最も可能性の高い原因を特定します。原因が複数ある場合は、影響が大きそうなもの、あるいは対策が比較的容易なものから優先順位をつけます。
- 具体的な対策計画の策定: 特定した原因に対する具体的な対策(例: 広告予算の増額、サイト翻訳の見直し、決済手段の追加など)を計画します。それぞれの対策に、必要な費用、期間、担当者を明確にします。
- 予算・リソースの再配分: 策定した対策計画を実行するために、必要な予算や人員リソースを再配分します。越境EC事業全体の計画を見直し、必要に応じて投資額を調整する判断も必要となるでしょう。
- 実行と検証: 策定した計画に基づき対策を実行し、その効果を定期的に(例えば週次や月次で)データで検証します。計画通りに進んでいるか、想定した効果は出ているかを確認し、必要に応じて計画を修正します。
- 専門家への相談の検討: 自社や既存のパートナーだけでは原因特定や対策が難しいと感じる場合、越境ECの専門コンサルタントなどに相談することも有効です。第三者の客観的な視点や専門的な知見が、状況打開の糸口となることがあります。
まとめ:注文ゼロは通過点と捉え、冷静な分析と粘り強い改善を
越境ECで注文が入らないという状況は、多くの事業者が経験する「最初の壁」の一つです。これを乗り越えるためには、焦らず、冷静に状況を分析し、データに基づいた原因特定と対策の実行、そして継続的な改善が不可欠です。
今回ご紹介したように、考えられる原因は「集客」「サイト上での購入促進(ローカライズ、ユーザビリティなど)」「市場/商品選定」に大別できます。経営者として、これらの視点を持ち、担当者と密に連携しながら、課題解決に向けて粘り強く取り組んでいくことが成功への鍵となります。
越境ECは短期的な成果だけでなく、長期的な視点で市場と向き合うことが重要です。今回の課題を学びの機会と捉え、改善を重ねることで、必ず道は開けるはずです。