初めての越境EC:海外顧客への商品発送、関税・消費税はどうなる?中小企業向け解説
はじめに:海外への商品発送と関税・消費税の課題
越境ECで海外のお客様にご注文いただいた商品を発送する際、必ず考慮しなければならないのが「関税」と「消費税」です。これらは、日本の国内取引では意識することが少ないため、「誰が払うのだろう?」「どれくらいかかるのだろう?」と疑問に思われる中小企業経営者の方も少なくないかもしれません。
これらの費用は、商品の価格設定や顧客満足度、さらには法的なリスクにも関わる非常に重要な要素です。正確な知識がないまま進めてしまうと、思わぬトラブルに繋がる可能性もございます。
この記事では、初めて越境ECに挑戦する中小企業経営者の皆様に向けて、海外への商品発送時に発生する関税と消費税について、その基本的な仕組み、計算方法、そして特に注意すべき点を分かりやすく解説いたします。
越境ECにおける関税・消費税の基本的な考え方
越境ECにおいて、お客様が商品を受け取る際に発生する関税や消費税は、原則として輸入国の法律に基づいて課される税金です。つまり、商品を「輸出」する日本側ではなく、商品を「輸入」するお客様側の国で発生します。
この税金は、お客様が商品を受け取る際に、現地の税関や配送業者から請求されるのが一般的です。しかし、この税金を「誰が負担するか」は、事前に明確にしておく必要があります。曖昧にしておくと、お客様が予期せぬ高額な税金を請求され、受け取りを拒否したり、クレームに繋がったりするリスクがあります。
関税とは?仕組みと計算方法
関税とは、ある国が特定の輸入品に対して課す税金です。その国の国内産業を保護したり、財政収入を確保したりする目的で課されます。
関税額は、主に以下の要素によって決まります。
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商品の種類(HSコード): 商品の種類ごとに、世界共通の「HSコード(Harmonized System Code)」という分類番号が定められています。このコードに基づいて、輸入国ごとに税率が設定されています。正確なHSコードを知ることが、正確な関税率を把握する第一歩となります。 (補足: HSコードは非常に細かく分類されており、商品の素材や用途などによって番号が変わります。どのHSコードに該当するかは、税関のウェブサイトなどで調べることができますが、判断が難しい場合は専門家や配送業者に相談することをお勧めします。)
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商品の価格(課税標準): 原則として、商品の価格(多くの場合、FOB価格という船積みまでの価格)に関税率をかけて計算されます。これに送料や保険料を含めた価格(CIF価格など)が課税標準となるケースもあります。どの価格を基準とするかは輸入国や取り決めによって異なります。
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輸入国の関税率: 同じ商品でも、輸入する国によって関税率は異なります。また、特定の国とのFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)が発効している場合、関税が減免されることもあります。
関税の計算例(簡易):
- 商品価格:10,000円
- 輸入国の関税率:5%
- 関税額:10,000円 × 5% = 500円
※実際の計算はより複雑になる場合があります。
消費税(輸入消費税)とは?
日本国内で商品やサービスを購入する際に消費税がかかるのと同様に、海外から商品を輸入する際にも、輸入国の消費税(またはそれに類する税金。VATやGSTなどと呼ばれます)が課されるのが一般的です。
この輸入消費税は、関税が課される場合は「商品価格に関税額を合算した金額」に対して課されることが多いです。
輸入消費税の計算例(簡易):
- 商品価格:10,000円
- 関税額:500円
- 輸入国の消費税率:10%
- 課税標準:10,000円 + 500円 = 10,500円
- 輸入消費税額:10,500円 × 10% = 1,050円
この場合、お客様が負担する税金は、関税500円 + 輸入消費税1,050円 = 1,550円 となります。
インコタームズと関税・消費税の支払い義務
商品の国際取引において、輸送中の費用負担やリスク負担、そして関税や消費税などの税金負担を明確にするために使われる国際ルールが「インコタームズ(Incoterms)」です。インコタームズは、貿易条件を定型化したもので、売主と買主の義務を定めています。
越境ECでよく使用されるインコタームズの例と、それぞれの関税・消費税に関する扱いは以下の通りです。
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FOB (Free On Board): 指定された船積港で本船に商品を積み込むまでが売主の義務。それ以降の輸送費、保険料、そして輸入国の関税・消費税は全て買主(お客様)の負担となります。越境ECでは、お客様に関税・消費税負担をお願いする場合に選択されることがあります。
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CIF (Cost, Insurance and Freight): 指定された仕向港までの運賃と保険料を売主が負担しますが、商品の引き渡し義務は船積港で完了します。輸入国の関税・消費税は買主(お客様)の負担となります。
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DDP (Delivered Duty Paid): 指定された仕向地まで商品を輸送し、輸入通関を済ませ、関税や輸入消費税を含む全ての税金を売主(自社)が支払うという条件です。お客様にとっては、商品代金以外の費用負担がないため、予期せぬ費用発生によるトラブルを防ぎ、顧客満足度を高めやすい条件です。ただし、売主側は輸入国の関税率や税制を正確に把握し、それらを価格に含める必要があります。
中小企業が初めて越境ECを行う場合、お客様に予期せぬ費用負担をさせないため、あるいは大手ECモールがDDPに近い形式(例: Amazon GlobalのImport Fee Deposit)を採用していることもあり、DDPの形式を採用するか、少なくとも関税・消費税はお客様負担であることを明確に伝えることが非常に重要です。
中小企業が注意すべきポイント
越境ECにおける関税・消費税に関して、中小企業が特に注意すべき点をいくつか挙げます。
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顧客への事前説明の徹底: 最も重要なのは、お客様が商品購入時に、関税・消費税が別途発生する可能性があることを明確に理解していただくことです。ECサイトの商品ページやFAQ、購入手続き画面で分かりやすく表示し、トラブルを未然に防ぎましょう。特にインコタームズでFOBなどお客様負担となる条件を選択する場合は必須です。
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価格設定への影響: DDP条件を選択する場合、関税・消費税の予測費用を考慮して商品価格を設定する必要があります。輸入国や商品によって税率が大きく異なるため、販売する国ごとの価格戦略が必要になるかもしれません。
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インボイスの正確な作成: 海外へ商品を発送する際には、コマーシャルインボイス(商業送り状)という書類が必要です。ここには、商品の詳細(品名、数量、価格など)、HSコード、取引条件(インコタームズ)、発送元、発送先などの情報を正確に記載しなければなりません。インボイスの記載ミスは、税関での手続き遅延や、誤った関税・消費税の計算に繋がる可能性があります。
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国ごとの違いの把握: 関税率、免税となる価格の基準(少額輸入貨物の免税制度)、消費税率、そして税金の徴収方法は国によって大きく異なります。主要な販売先となる国の制度については、事前に調査しておくことが望ましいです。
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返品時の関税: お客様都合や初期不良などで商品が返品された場合、日本に再輸入する際に再度関税が発生する可能性があります。しかし、特定の条件を満たせば、支払い済みの関税が還付されたり、課税が免除されたりする制度がある国もあります。返品ポリシーを定める際に、これらの関税の取り扱いについても考慮が必要です。
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専門家・配送業者との連携: 関税・消費税に関する正確な情報は、各国の税関や国際的な配送業者(DHL, FedEx, UPS, EMSなど)が持っています。不明な点があれば、これらの機関や、貿易実務に詳しいコンサルタントに相談することをお勧めします。配送業者によっては、関税計算や徴収を代行してくれるサービスを提供しています。
経営判断の視点:関税・消費税を踏まえた戦略
越境ECにおける関税・消費税は、単なる追加費用としてではなく、経営判断の重要な要素として捉えるべきです。
- どの国・地域に販売するか?: 関税率や消費税率、少額免税の基準は国によって大きく異なります。税負担が少ない国からテストマーケティングを始めるという戦略も考えられます。
- 価格戦略をどうするか?: 関税・消費税をお客様負担とするか(FOBなど)、自社負担として価格に含めるか(DDPなど)によって、お客様に提示する価格が変わります。競合他社の提示価格や、ターゲット顧客の価格感度を考慮して決定する必要があります。
- 顧客体験をどう設計するか?: お客様が商品受け取り時に予期せぬ税金を請求されることは、顧客満足度を著しく低下させる要因となります。DDPの採用や、事前説明の徹底、あるいは関税計算ツールの導入などを検討し、スムーズな顧客体験を提供することが重要です。
これらの視点から、関税・消費税を考慮した販売戦略、価格戦略、そしてリスク管理体制を構築することが、越境EC成功への鍵となります。
まとめ
越境ECで海外に商品を発送する際に発生する関税と消費税は、輸入国の法律に基づき課される税金であり、原則としてお客様が負担するものです。しかし、インコタームズの選択や、お客様への事前の情報提供によって、その負担方法や顧客体験は大きく変わります。
中小企業の皆様が越境ECに挑戦する際は、これらの税金に関する基本的な知識を身につけ、販売先の国の制度を調査し、適切なインコタームズを選択した上で、お客様に明確な情報提供を行うことが不可欠です。
最初は複雑に感じられるかもしれませんが、正確な理解と丁寧な準備を行うことで、お客様との信頼関係を築き、越境EC事業を安定的に運営することが可能となります。不明な点は専門家や信頼できる配送業者に相談しながら、着実に進めていくことをお勧めいたします。