初めての越境EC:ターゲット市場選定の具体的な方法と注意点【中小企業向け】
はじめに:越境ECの最初の経営判断は「どこで売るか」
越境ECに挑戦を検討されている中小企業の経営者の皆様、こんにちは。 当サイトは、初めて越境ECに取り組む皆様に、ローカライズの基本と具体的なステップを解説することを目指しています。
越境ECは、国内市場の縮小という課題に対し、新たな販路を見出す有効な手段となり得ます。しかし、漠然と海外で商品を販売すれば成功するというわけではありません。まず、最初にして最も重要な経営判断の一つが、「どの国や地域をターゲットとするか」、つまり「ターゲット市場の選定」です。
この市場選定を誤ると、その後の全ての取り組みが無駄になってしまうリスクも考えられます。逆に、自社の商品・サービスに合った市場を適切に選定できれば、成功への確度は大きく高まります。
本記事では、中小企業が越境ECでターゲット市場を選定する際に、どのような視点で考え、具体的にどう進めれば良いのか、そして注意すべき点は何かを分かりやすく解説いたします。
ターゲット市場選定の前に考えるべきこと
具体的な市場選定の方法に入る前に、まずは自社の状況を冷静に見つめ直すことから始めましょう。
1. 自社の商品・サービスの強みと特性を理解する
「何を売るか」は「どこで売るか」に大きく影響します。 * 自社の商品・サービスは、どのような強みや独自性を持っていますか? * ターゲットとすべき顧客層はどのような人たちですか? * 国内での実績や顧客からの評価はどうでしょうか?
これらの点を深く理解することで、その強みが活かせる海外市場はどこかを推測する手がかりとなります。例えば、特定の技術に特化した製品であれば、その技術への関心が高い国や、関連産業が盛んな国が候補となるでしょう。高品質な伝統工芸品であれば、日本の文化や職人技への評価が高い国が考えられます。
2. 越境ECに取り組む目的を明確にする
越境ECに取り組む目的によって、選ぶべき市場の方向性が変わることがあります。 * 売上規模の拡大を最優先するのか? * 特定の国でのブランド認知度向上を目指すのか? * 将来的な海外進出の足がかりとするのか?
売上規模を追求するのであれば、EC市場規模が大きく、自社商品へのニーズが比較的高いと見込める市場が候補になるでしょう。一方、ブランド認知度向上であれば、メディア露出の機会が多い市場や、インフルエンサーマーケティングが効果的な市場を検討することもできます。目的を明確にすることで、市場選定の基準に優先順位をつけることができます。
3. 利用可能なリソース(ヒト・モノ・カネ)を把握する
中小企業にとって、リソースは限られています。現実的にどこまで対応できるのかを把握しておくことが非常に重要です。 * 越境ECに専任で割ける人員はいますか?語学力のある人材はいますか? * 初期投資としてどれくらいの予算を割けますか? * 商品の在庫管理や海外配送の体制は整えられますか?
例えば、社内に特定の言語に堪能な人材がいれば、その言語が公用語である国は有利な候補となる可能性があります。また、潤沢な予算があれば、リスクの高い市場に挑戦したり、大規模なプロモーションを展開したりすることも可能ですが、限られた予算であれば、より堅実な市場を選ぶ必要があります。
ターゲット市場選定の具体的なステップ
自社の状況を踏まえた上で、いよいよ具体的な市場選定のプロセスに入ります。
ステップ1:候補となる国・地域をリストアップする
まずは広くアンテナを張り、候補となりうる国や地域をリストアップします。この段階では、自社の商品に興味を持ちそうな国、なんとなく親近感がある国、取引先がある国など、様々な視点から可能性のある地域を洗い出してみましょう。
ステップ2:様々な角度から情報を収集し、候補を絞り込む
リストアップした候補に対し、客観的な情報収集を行います。収集すべき情報の例は以下の通りです。
- 市場規模と成長性:
- その国のEC市場規模はどれくらいか?今後どの程度成長が見込まれるか?
- 自社商品や関連商品の市場規模はどうか?
- インターネット普及率やスマートフォンの利用率は高いか?
- 競合状況:
- すでに類似商品を扱っている競合他社(国内外)はどのくらいいるか?
- 価格競争は激しいか?
- 顧客の特性とニーズ:
- 国民の所得水準や消費性向はどうか?
- 自社商品のターゲット層(年齢、性別、職業、趣味など)は存在するか?
- 日本の商品や文化に対する関心は高いか?
- オンラインショッピングの利用習慣や購買プロセスはどうか?
- インフラと物流:
- インターネット通信環境は安定しているか?
- 信頼できる配送業者はあるか?輸送料金は妥当か?
- 税関手続きはスムーズか?(関税や輸入規制の確認)
- 法規制と商習慣:
- 消費者保護に関する法律はどうか?
- 販売許可や認証が必要な商品か?
- 知的財産権は保護されるか?
- 決済システムは普及しているか?(クレジットカード、現地の電子マネーなど)
- 返品やクレーム対応に関する商習慣はどうか?
- 言語と文化:
- 公用語は何か?商品の説明や顧客対応をその言語で行う必要があるか?
- 色やデザイン、パッケージに対する文化的なタブーや好まれやすい傾向はあるか?
- 現地の祝祭日や商戦期はいつか?
これらの情報は、JETRO(日本貿易振興機構)のウェブサイト、各種市場調査会社のレポート、現地の政府機関や商工会議所、統計データなどを通じて収集することができます。
ステップ3:自社のリソースと照らし合わせ、最終候補を決定する
収集した情報を元に、候補国を評価します。この際、ステップ2で挙げた情報項目に対し、自社のリソースや目的との適合性を考慮し、優先順位をつけて評価することが重要です。
例えば、EC市場規模は大きいが、法規制が複雑で言語の壁も厚い国と、EC市場規模は小さいが、自社商品への関心が高く、特定の言語対応だけで済む国があったとします。リソースが限られている中小企業であれば、後者の方が現実的で、成功の可能性が高いと判断できるかもしれません。
リスクとリターンを比較検討し、最も自社にとって有望と思われる市場を最終候補として決定します。最初は1つか2つの市場に絞るのがおすすめです。
中小企業がターゲット市場選定で失敗しないための注意点
市場選定のプロセスにおいては、いくつかの落とし穴があります。特に中小企業が注意すべき点を挙げます。
1. 安易な理由で市場を選ばない
「なんとなく良さそう」「隣国だから簡単そう」「知り合いがいる」といった安易な理由だけで市場を選定するのは危険です。必ず客観的なデータと自社の強み・リソースを照らし合わせて判断しましょう。
2. 情報収集を怠らない
インターネット上の情報だけでは不十分な場合があります。可能な範囲で現地の一次情報(市場調査会社への依頼、現地の商工会議所への問い合わせ、展示会視察など)に触れる努力も重要です。特に、顧客の購買習慣や文化に関する情報は、実際に現地で活動している人に聞くのが最も有効な場合もあります。
3. リソースを過信しない
大企業とは異なり、中小企業のリソースは限られています。複数の市場に同時展開しようとすると、いずれも中途半端になってしまうリスクがあります。まずは一つの市場に集中し、そこでノウハウを蓄積してから次の展開を考える方が賢明な戦略と言えます。
4. ニッチ市場の可能性も考慮する
大手企業が進出している巨大市場で真正面から勝負するのは難しい場合があります。しかし、特定の趣味嗜好を持つ人々が多くいるニッチな市場や、まだ競合が少ない未開拓の市場に自社商品がフィットする可能性があります。マクロデータだけでなく、特定の層に絞った調査も行う価値があります。
5. 撤退基準を事前に設定しておく
万が一、選定した市場で想定通りに進まなかった場合の「撤退基準」を事前に決めておくことも重要です。例えば、「半年経っても目標売上の〇〇%に達しない場合」「累計損失が〇〇円を超えた場合」などです。これにより、損失を最小限に抑え、次の戦略に切り替える判断がしやすくなります。
市場選定の次のステップへ
ターゲット市場が決定したら、いよいよ具体的な越境ECの準備段階に入ります。選定した市場に合わせて、以下の点を検討し、実行していくことになります。
- 販売チャネルの選定(自社サイト、モール型など)
- サイトや商品情報のローカライズ(言語、通貨、デザインなど)
- 決済方法の準備
- 物流・配送体制の構築
- 法律、税金、関税への対応
- カスタマーサポート体制の構築(言語対応含む)
- マーケティング戦略の策定・実行
これらの各ステップについては、今後当サイトで詳しく解説していく予定です。
まとめ
越境ECにおけるターゲット市場の選定は、成功に向けた最初の、そして最も重要な経営判断です。
- 自社の強み、目的、リソースを明確にする。
- 候補となる国・地域について、市場規模、競合、顧客、インフラ、法規制、文化など多角的な情報を収集・分析する。
- 自社のリソースとリスク許容度を考慮し、最も有望な市場を絞り込む。
- 安易な選定は避け、地道な情報収集と現実的なリソース評価を行う。
このプロセスにしっかりと時間をかけ、適切な市場を選定することが、越境ECを成功させるための礎となります。焦らず、着実に、最適な市場を見つけてください。
初めての越境EC挑戦は、乗り越えるべきハードルがいくつかありますが、適切な準備と段階的なステップを踏むことで、着実に進めることができます。まずはこの市場選定から、越境ECへの挑戦を具体的にスタートさせていきましょう。