【中小企業向け】初めての越境EC、販売戦略をどう立てる?具体的なステップと考慮すべき点
初めて越境ECに挑戦される中小企業の経営者の皆様にとって、「海外でどうやって商品を売るのか」という具体的な販売戦略は、事業の成否を左右する重要な課題かと存じます。漠然と海外市場に魅力を感じていても、実際にどのような商品を、どの国で、どのような方法で、いくらで販売すれば良いのか、全体像が見えないままでは、具体的な一歩を踏み出すことは難しいでしょう。
この度、本稿では、越境ECにおける販売戦略の基本的な考え方と、中小企業の皆様が実際に戦略を立てる上での具体的なステップ、そして経営判断として考慮すべきポイントについて解説いたします。
越境ECにおける販売戦略とは何か
販売戦略とは、自社の商品やサービスを特定のターゲット顧客に届け、売上を上げていくための具体的な道筋、計画のことです。国内市場での販売戦略と同様に、越境ECにおいても、誰に(ターゲット)、何を(商品・サービス)、どこで(販売チャネル)、どのように(プロモーション)、いくらで(価格)販売するのか、を明確にする必要があります。
しかし、越境ECでは、国内市場とは異なり、言語、文化、商習慣、法規制、通貨、物流など、様々な国境を越える特有の壁が存在します。これらの違いを理解し、自社のリソース(資金、人材、時間など)を考慮に入れた上で、現実的かつ効果的な戦略を立てることが不可欠です。
初めて越境ECに取り組む中小企業にとって、完璧な戦略を最初から作り上げる必要はありません。まずは「スモールスタート」を視野に入れつつ、基本的な要素を明確にし、実行可能な計画を立てることが重要になります。
越境ECの販売戦略を立てるための具体的なステップ
越境ECの販売戦略を立案する際には、以下のステップで進めることを推奨いたします。これらのステップは相互に関連しており、必要に応じて見直しや調整を行うことが重要です。
ステップ1:目的と目標を明確にする
まず最初に、「なぜ越境ECに取り組むのか」「越境ECで何を達成したいのか」という目的を明確にすることから始めます。例えば、「新たな販路を開拓し、国内市場の縮小を補う」「自社ブランドの海外での認知度を高める」「特定の海外市場でシェアを獲得する」といった目的が考えられます。
次に、その目的を達成するための具体的な目標を設定します。目標は、期間(例:1年後、3年後)、達成すべき数値(例:月間売上〇〇円、新規顧客獲得数〇〇人、特定商品の販売数〇〇個など)を含めた、定量的かつ測定可能なものにすることが望ましいです。「KPI(重要業績評価指標)」として設定することで、進捗を管理しやすくなります。(参考記事:[初めての越境EC:経営者が知るべき「目標設定」と「重要指標」(KPI)])
経営判断として、この段階で越境EC事業に投下できるリソース(予算、人員、時間など)の上限を定めておくことも現実的な目標設定に繋がります。
ステップ2:ターゲット市場を選定する
次に、どの国・地域の顧客をターゲットにするのかを決定します。世界のすべての市場を同時に狙うことは、リソースが限られる中小企業にとっては非現実的です。
ターゲット市場を選定する際には、以下の要素を考慮します。
- 市場規模と成長性: その市場に自社の商品に対するニーズはどれくらいあるか、今後成長が見込めるか。(参考記事:[初めての越境EC:海外市場規模と可能性を調べる具体的なステップ【中小企業向け】])
- 競合環境: 既に類似商品を販売している競合他社はいるか、どのような状況か。(参考記事:[初めての越境EC:海外で自社商品が売れるか?競合調査のやり方と活用法【中小企業向け】])
- ターゲット顧客層: 自社の商品が響く可能性のある顧客層(年齢、性別、趣味嗜好、購買力など)はどのくらい存在するか。
- 法規制・税制: 輸入規制、製品規格、関税、消費税など、越境ECに関わる法規制や税制はどうなっているか。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外の「法規制」「税金」「関税」基本と注意点])
- 物流環境: 現地への配送網は整備されているか、コストはどれくらいか。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外顧客に商品を届ける「物流・配送」の基本と注意点])
- 言語・文化: 言語の壁はどの程度か、文化的な違いは商品やプロモーションにどのような影響を与えるか。(参考記事:[越境ECにおける文化の壁を越える:中小企業のための注意点と対応策]、[初めての越境EC:言語、通貨、文化…「ローカライズ」で押さえるべき重要要素と対応策【中小企業向け】])
これらの情報を収集し、自社の強み(商品力、技術力など)と照らし合わせて、最も可能性が高く、かつリスクを管理しやすい市場から着手することを検討します。
ステップ3:販売する商品を選定する
選定したターゲット市場で、具体的にどの商品を販売するのかを決定します。自社の全商品を一度に海外で販売するのではなく、特定の市場に受け入れられやすい、あるいは競争力のある商品から絞り込むことが現実的です。
商品選定の際には、以下の点を考慮します。
- 市場ニーズとの合致: 選定した市場の顧客ニーズやトレンドに合っているか。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外で売れる「商品」の探し方・選び方])
- 競合商品との差別化: 競合他社の類似商品と比較して、どのような強みがあるか。
- 海外発送の可否: 規制品に該当しないか、破損のリスクは高くないか、送料とのバランスは取れるか。
- ローカライズの必要性: パッケージ、説明書、成分表示など、現地の言語や規制に合わせた変更が必要か。
- 利益率: 海外発送コストや関税などを考慮しても、十分な利益が見込めるか。
特に初めての場合は、テストマーケティング(参考記事:[初めての越境EC:『テストマーケティング』でリスクを最小化する方法【中小企業向け】])を実施し、少数ロットで市場の反応を確認することも有効です。
ステップ4:販売チャネルを選定する
商品をどのように海外の顧客に届けるか、販売チャネルを決定します。主な選択肢としては、「自社ECサイトを構築する」または「既存の越境ECモールに出店する」の2つがあります。(参考記事:[中小企業向け越境EC:自社サイト型?モール型?最適な販売チャネルの選び方])
それぞれの特徴を理解し、自社の状況や目標に合わせて選択します。
- 自社ECサイト型:
- メリット: ブランドイメージを自由に表現できる、顧客データを詳細に分析できる、手数料がモールと比較して低い場合がある。
- デメリット: 集客を自力で行う必要がある、サイト構築・運用の手間と費用がかかる、技術的な知識が必要になる場合がある。
- モール型(Amazon、eBay、越境EC特化モールなど):
- メリット: 既に多くの顧客が集まっているため集客しやすい、サイト構築・運用の手間が比較的少ない、多言語対応や決済・物流のサポートが充実している場合が多い。
- デメリット: 競合商品が多い、手数料がかかる、ブランドイメージの表現に制約がある、顧客データが十分に得られない場合がある。
複数のチャネルを組み合わせる(例:最初はモールで市場の反応を見て、手応えがあれば自社サイトも検討するなど)ことも有効な戦略です。
ステップ5:価格戦略を策定する
海外の顧客に商品をいくらで販売するのか、価格を決定します。国内での販売価格をそのまま適用するわけにはいきません。
価格設定には、以下の要素を考慮する必要があります。(参考記事:[初めての越境EC:海外販売価格はどう決める?中小企業のための基本ガイド])
- 製造原価・仕入れ価格: 商品自体のコスト。
- 海外輸送費・関税: 国際物流コストや、輸入時にかかる税金。
- 販売チャネル手数料: モール出店料や決済手数料など。
- ローカライズ費用: 翻訳や改修にかかる費用。
- プロモーション費用: 広告費など。
- ターゲット市場の購買力: 現地顧客がその商品に対して支払える金額の上限。
- 競合商品の価格: 競合他社の価格帯。
- 為替レート: 為替変動によるリスクと、その対策。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外顧客への「価格提示」と「為替変動リスク」対策])
これらのコストを適切に計算し、目標とする利益率を確保できる価格を設定します。市場によっては、国内価格よりも高く設定することも、低く設定することも考えられます。
ステップ6:プロモーション・集客戦略を策定する
どのようにして海外のターゲット顧客に自社や商品の存在を知ってもらい、購入につなげるのか、具体的なプロモーション・集客方法を計画します。(参考記事:[中小企業向け越境ECの集客:海外顧客に選ばれるためのマーケティング基礎知識])
- デジタルマーケティング:
- SEO(検索エンジン最適化): 海外の検索エンジン(Googleなど)で上位表示されるための対策。(ターゲット言語でのキーワード選定、コンテンツ作成など)
- SEM(検索エンジンマーケティング): Google Adsなどを使用したリスティング広告。(参考記事:[初めての越境EC広告:費用対効果を出すための基本戦略【中小企業向け】])
- SNSマーケティング: Facebook, Instagram, Twitterなど、ターゲット市場で普及しているSNSを活用した情報発信や広告。
- コンテンツマーケティング: 現地語でのブログ記事、動画など、ターゲット顧客に役立つ情報を提供し、集客につなげる。(参考記事:[越境EC成功の鍵:海外顧客に響くウェブサイト・ブログ・SNSコンテンツの作り方【中小企業向けローカライズ編】])
- その他のプロモーション:
- インフルエンサーマーケティング、現地のメディア露出、展示会への出展なども検討できます。
プロモーション方法は、ターゲット市場の顧客がどのような情報媒体に触れているか、どのような行動パターンをとるかに合わせて選択することが重要です。
ステップ7:物流・決済・カスタマーサポートの体制を計画する
販売戦略を実行するために不可欠な、物流、決済、カスタマーサポートの体制についても計画を立てます。
- 物流・配送: どのように商品を海外の顧客に発送するか。自社で発送するか、外部の配送代行業者を利用するか、現地の倉庫を利用するかなどを検討します。関税や消費税の取り扱いについても、事前に確認が必要です。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外顧客に商品を届ける「物流・配送」の基本と注意点]、[初めての越境EC:海外顧客への商品発送、関税・消費税はどうなる?中小企業向け解説])
- 決済: 海外の顧客が利用しやすい決済方法を複数用意する必要があります。クレジットカードはもちろん、PayPal、現地の電子マネーなども考慮します。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外顧客からの「支払い」どうする?決済方法の基本と注意点])
- カスタマーサポート: 問い合わせ対応、返品・返金対応など、海外顧客からのサポート体制を構築します。言語の壁や時差を考慮した対応が必要です。(参考記事:[中小企業向け越境EC:海外顧客とのコミュニケーションとサポート体制の作り方]、[【中小企業向け】越境EC:海外顧客への返品・返金対応の基本と注意点])
これらの裏側の体制が整っていないと、せっかく注文が入っても対応できず、顧客満足度を損ない、事業の継続が難しくなります。
経営判断として考慮すべきポイント
販売戦略を策定し、実行に移す際には、以下の経営判断ポイントを意識することが重要です。
- リソースの現実的な配分: 予算、人員、時間といった限られたリソースを、どのステップ、どの施策にどれだけ配分するのかを現実的に判断する必要があります。すべてを完璧にやろうとせず、優先順位をつけることが重要です。
- リスクの評価と対策: 為替変動リスク、物流リスク、法規制リスク、不正取引リスクなど、越境ECには様々なリスクが伴います。(参考記事:[越境ECに潜むリスクとは?中小企業が知っておくべき対策と準備])これらのリスクを事前に評価し、どのような対策を講じるかを判断します。
- 社内体制の構築と外部パートナーの活用: 越境ECには専門知識が必要となる場面が多くあります。社内に専門部署や担当者を置くのか、翻訳会社、物流業者、コンサルティング会社といった外部パートナーにどこまで委託するのかを判断します。(参考記事:[初めての越境EC:成功に必要な「人」の準備:社内体制と外部パートナーの選び方【中小企業向け】]、[中小企業向け越境EC:どこまで外部に任せるべきか?委託できる業務と判断ポイント])
- 継続的なデータ分析と改善: 越境ECサイト公開後は、アクセス状況、売上データ、顧客の行動などを分析し、販売戦略が計画通りに進んでいるか、改善すべき点はないかを確認する必要があります。(参考記事:[中小企業向け越境EC:サイト運用で必須の「データ分析」基本と活用ステップ])データに基づいた意思決定と、戦略の柔軟な見直しが成功には不可欠です。
まとめ:最初の一歩としての販売戦略
初めての越境ECにおける販売戦略策定は、決して容易なことではありません。しかし、闇雲に進めるのではなく、本稿で解説したような基本的なステップに沿って、一つずつ要素を明確にしていくことで、全体像を把握し、具体的な行動計画を立てることが可能になります。
特に中小企業の皆様にとっては、限られたリソースの中で最大の効果を出すためにも、事前の計画が非常に重要です。完璧を目指すのではなく、まずは現実的な目標と、それを達成するための具体的な道筋を描くことから始めてみてはいかがでしょうか。
戦略は一度立てたら終わりではなく、市場の反応を見ながら継続的に改善していくものです。最初の一歩を踏み出すための計画として、本稿の情報がお役に立てれば幸いです。