初めての越境EC:海外で自社商品が売れるか?競合調査のやり方と活用法【中小企業向け】
越境ECへの第一歩を踏み出すにあたり、「自社の商品は本当に海外で売れるのだろうか?」あるいは「どのような商品が海外市場で受け入れられるのだろうか?」といった疑問や不安をお持ちのことと存じます。これらの疑問に答えるための重要なステップの一つが、「競合調査」です。
国内市場とは異なり、海外市場には異なる文化、商習慣、そして当然ながら、すでに活動している競合他社が存在します。やみくもに商品を投入するのではなく、事前に市場の状況、特に競合の動向を把握することは、越境ECの成功確率を高め、不要なリスクを回避するために不可欠です。
この記事では、初めて越境ECに挑戦される中小企業の経営者の皆様が、競合調査の基本的な考え方、具体的な調査項目とやり方、そして調査結果をどのように経営判断に活かせるのかを分かりやすく解説いたします。
なぜ越境ECで競合調査が必要なのか?
競合調査は、単に「どんな会社が似たような商品を売っているか」を知るためだけではありません。越境ECにおける競合調査は、以下の重要な目的のために行われます。
- 市場理解の深化: ターゲットとする海外市場に、自社の商品やサービスに対してどのような需要があるのか、競合の成功・失敗事例から示唆を得られます。
- 自社の強み・弱みの明確化: 競合の商品やサービス、価格、プロモーション方法と比較することで、自社の立ち位置や差別化できるポイント、逆に足りない部分を把握できます。
- 適切な戦略立案: 競合がどのような販売チャネル(自社サイト、モールなど)を利用し、どのようなマーケティング手法を使っているかを知ることで、自社の販売・集客戦略を立てる上でのヒントが得られます。
- リスクの低減: 競合がどのようなリスクに直面し、どのように対応しているかを学ぶことで、潜在的な問題を予測し、事前に対策を講じることが可能になります。
- 価格設定の妥当性判断: 競合の価格帯を把握することで、自社商品の価格設定が市場に対して適切か、競争力があるかを確認できます。
競合調査は、羅針盤のない航海に出るのではなく、事前にしっかりと海図を読み解く作業と言えるでしょう。
越境ECの競合調査で「何を」調べるべきか?
競合調査で調べるべき項目は多岐にわたりますが、初めて取り組む際には、以下の基本的な項目に焦点を当てることから始めると良いでしょう。
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主要な競合他社の特定:
- ターゲット市場で活動している、自社と似たような商品やサービスを提供している企業は誰か?
- 現地の企業か、他の国からの越境EC事業者か?
- その中でも特に影響力の大きい企業はどこか?
- 単に「競合」としてだけでなく、彼らがターゲットとしている顧客層はどこか?
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競合の商品・サービス:
- どのような商品を扱っているか?(品揃え、ラインナップ)
- 品質や機能はどうか?
- 価格帯はどうか?(自社商品と比較して高いか安いか、中間か)
- 商品の魅力はどのように打ち出されているか?(商品説明、写真、動画)
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競合の販売チャネルと戦略:
- 自社ECサイトで販売しているか?特定の越境ECモール(例:Amazon、eBay、各国のローカルモール)を利用しているか?
- どのようなプロモーション(広告、SNS活用、インフルエンサーマーケティングなど)を行っているか?
- 送料無料サービスや割引キャンペーンなど、どのような販促施策を実施しているか?
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競合の顧客体験(UX):
- 彼らのECサイトは見やすいか?使いやすいか?
- 決済方法は多様か?現地で主流の決済手段に対応しているか?
- 物流・配送にかかる日数や費用はどうか?返品・返金ポリシーは明確か?
- 顧客からの問い合わせに対するサポート体制はどうか?(言語対応、返信速度など)
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競合のローカライズ状況:
- ウェブサイトや商品情報は現地の言語に適切に翻訳されているか?(機械翻訳か、プロの翻訳か)
- 通貨や単位(サイズ、重量など)は現地に合わせているか?
- 現地の文化や商習慣に配慮した表現やデザインが使われているか?
これらの項目を調査することで、競合がどのように海外市場でビジネスを展開しているか、その全体像が見えてきます。
越境ECの競合調査「具体的なやり方」
では、これらの情報をどのように集めれば良いのでしょうか。中小企業でも実施しやすい具体的な方法をいくつかご紹介します。
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オンラインでの情報収集:
- 検索エンジンでの調査: Googleなどの検索エンジンで、ターゲット市場の言語を使って、自社商品や関連キーワードを検索してみましょう。上位表示されるECサイトやメディア記事、ブログなどが有力な競合となり得ます。
- 主要ECモールのチェック: Amazon(現地のサイト)、eBay、またはターゲット市場で人気のあるローカルECモール(例:タオバオ、Tmall(中国)、ラザダ、Shopee(東南アジア)など)で、自社商品カテゴリを検索し、販売者や売れ筋商品を調べます。
- SNSでの情報収集: Facebook、Instagram、Twitter、YouTubeなど、ターゲット市場で人気のあるSNSで、関連するキーワードやハッシュタグを検索し、競合アカウントや商品に関する投稿をチェックします。インフルエンサーの活動も参考になります。
- 競合サイトの直接訪問: 特定した競合他社のウェブサイトを訪問し、商品の品揃え、価格、サイト構成、決済・配送オプション、返品ポリシーなどを確認します。可能であれば、実際に商品を購入する(テスト購入)ことで、配送日数や梱包、カスタマーサポートの対応なども実体験として把握できます。
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オンラインツールの活用(簡単な紹介):
- 一部のオンラインツールは、特定のウェブサイトのアクセス状況、利用キーワード、競合サイトなどを分析する機能を提供しています(例:SimilarWeb、Ahrefsなど)。これらのツールは有料のものが多いですが、無料版や無料トライアルで基本的な情報を得ることも可能です。技術的な専門知識がなくても、視覚的に分かりやすいレポートを提供してくれるツールもあります。
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現地の情報源(可能な場合):
- もし現地のパートナーや知人がいれば、消費者の声や市場の雰囲気を聞くことも有効です。現地の展示会や見本市に参加することも、一次情報を得る良い機会ですが、これは費用や時間の制約から難しい場合もあるでしょう。
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越境EC代行会社やコンサルタントへの相談:
- 自社で調査する時間やノウハウが不足している場合は、越境ECの専門家である代行会社やコンサルタントに調査を依頼することも検討できます。彼らは特定の市場に関する深い知識や調査ツールを持っている場合が多く、より網羅的で専門的な情報を提供してくれます。費用はかかりますが、質の高い情報を効率的に得られるメリットがあります。
これらの方法を組み合わせることで、多角的に競合の情報を集めることが可能です。最初から完璧を目指す必要はありません。まずはできる範囲で、基本的な情報収集から始めてみましょう。
調査結果を「どう活用」するか?経営判断への落とし込み
集めた競合情報を分析し、自社の越境EC戦略に活かすことが最も重要です。調査結果を以下の視点で整理し、経営判断に役立てましょう。
- 自社商品の「売れるポイント」発見: 競合の商品と比べて、自社商品の独自性、品質、機能、デザインなどで優れている点はどこか?競合が提供できていない価値は何か?これらが海外市場での「売り」になります。
- 適切な価格設定: 競合の価格帯やプロモーションを踏まえ、自社商品はどの価格帯で販売するのが最も競争力があるか?価格を下げるべきか、品質やブランドで高価格帯を狙うべきか?
- 最適な販売チャネルとマーケティング戦略: 競合がどのチャネルで成功しているか?どのようなマーケティング手法が効果的か?自社に合った販売チャネルの選択や、効率的な集客方法を検討します。
- ローカライズ戦略の方向性: 競合のサイトやコンテンツのローカライズ状況はどうか?どの言語に対応すべきか?どのような文化的配慮が必要か?競合よりも優れたローカライズを提供することで差別化を図れる可能性もあります。
- 潜在的なリスクへの対応: 競合が直面している物流、決済、法規制などの課題や、それに対する対応策を参考に、自社が将来直面する可能性のあるリスクを予測し、事前に準備を進めます。
競合調査は一度行えば終わりではありません。市場は常に変化し、競合も新しい戦略を展開してきます。そのため、定期的に競合の動向をウォッチし、自社の戦略を継続的に見直すことが重要です。
中小企業が競合調査を行う上での注意点
初めて越境ECの競合調査を行う中小企業様が陥りやすい注意点についても触れておきます。
- 情報過多にならない: あまりにも多くの情報を一度に集めようとすると、分析しきれずに途中で挫折してしまうことがあります。まずは調査項目を絞り、核となる競合から調査を始めましょう。
- 表面的な情報だけでなく、背景を読み解く: 競合の「売上」といった数字は簡単には分かりません。重要なのは、なぜ彼らがその戦略を取っているのか、その背後にある意図や市場環境を読み解こうとすることです。
- 調査に時間をかけすぎない: 調査はあくまで手段であり、目的は越境ECを成功させることです。調査に完璧を求めすぎず、得られた情報をもとに次のステップに進む勇気も必要です。スモールスタートやテストマーケティングで市場の反応を直接確認する方が効率的な場合もあります。
まとめ
越境ECに初めて挑戦する中小企業にとって、競合調査は海外市場での自社商品の可能性を探り、成功への道筋を描くための重要なプロセスです。競合がどのように海外市場で活動しているかを理解することは、自社の強みを活かし、適切な戦略を立てる上で不可欠な経営判断の材料となります。
ご紹介した具体的な調査項目ややり方を参考に、まずはできる範囲で競合調査に取り組んでみてください。得られた情報をもとに、自社商品の海外市場における立ち位置を明確にし、具体的な販売戦略やローカライズ計画へと繋げていくことが、越境EC成功への確かな一歩となるでしょう。