中小企業向け越境EC:海外で売上を伸ばすための販売戦略の立て方
越境ECで「売れる」ための第一歩:販売戦略の重要性
越境ECに挑戦する際、「ただ海外に商品を並べれば売れる」という考え方は、多くの場合成功につながりません。なぜなら、国内市場とは全く異なる商習慣、文化、顧客ニーズが存在するからです。ターゲット市場を選定し、商品を準備したとしても、「どのように売るか」という具体的な計画がなければ、売上を継続的に伸ばすことは難しいでしょう。
この「どのように売るか」という計画こそが、「販売戦略」です。販売戦略とは、どの市場で、どのような顧客に、どのような価値を持つ商品を、どのような方法で販売し、どのように利益を上げるか、といった事業活動の全体像を定めるものです。
特にリソースが限られる中小企業にとって、無計画に進めることは大きなリスクを伴います。自社の強みを活かし、ターゲット市場の特性を理解した上で、効率的かつ効果的な販売戦略を立てることが、越境EC成功の鍵となります。
本稿では、越境EC初心者の中小企業経営者の皆様が、海外市場で売上を伸ばすための販売戦略の基本的な考え方と、具体的な立て方について解説します。
越境EC販売戦略を立てるための基本的なステップ
販売戦略の策定は、以下のステップで進めることをお勧めします。これらのステップは相互に関連しており、繰り返し見直しながら精度を高めていくことが重要です。
ステップ1:ターゲット市場と顧客の再確認
すでにターゲット市場を選定している場合でも、販売戦略を具体的に考える上で、その市場の特性や潜在的な顧客についてより深く理解する必要があります。
- 市場規模と成長性: ターゲット市場のEC市場規模や今後の成長予測を確認します。
- 顧客の購買行動: どのような顧客層が、どのような商品を、どのような方法(PC、スマートフォンなど)で購入する傾向があるのか、決済手段の好みなどを調査します。
- 文化的背景: ターゲット市場の文化や習慣が、商品の受け入れられ方やプロモーション方法にどう影響するかを考慮します。例えば、贈答品の習慣や特定のデザイン・色が持つ意味合いなどです。
ステップ2:競合環境の分析
ターゲット市場で、自社と同様の商品やサービスを提供している競合他社を分析します。
- 主な競合: 現地の競合、他の越境EC事業者など、主要な競合を特定します。
- 競合の強み・弱み: 競合の商品ラインナップ、価格設定、プロモーション方法、配送体制、カスタマーサポートなどを調査し、彼らの強みと弱みを把握します。
- 市場での立ち位置: 競合が市場でどのように認知されているか、どのようなポジショニングを取っているかを理解します。
この分析により、自社が市場でどのような差別化を図るべきかが見えてきます。
ステップ3:商品のポジショニングと価値提案
自社の商品がターゲット市場の顧客にとって、どのような価値を提供するのかを明確にします。競合分析の結果を踏まえ、自社の商品が競合と比べてどのような点で優れているのか(例:品質、デザイン、機能、価格、ストーリー性など)、顧客のどのような課題を解決するのかを具体的に言語化します。これが、商品の「ポジショニング」であり、「価値提案」(Value Proposition)です。
- 例: 「日本の伝統技術で作られた、アレルギー体質でも安心して使える高品質な石鹸」など、具体的かつ魅力的な価値提案を作成します。
ステップ4:価格設定戦略
商品の価格は、売上や利益に直接影響するため、慎重に決定する必要があります。単に原価に利益を乗せるだけでなく、ターゲット市場の物価水準、競合の価格、顧客がその価値にどれくらい支払う意思があるかなどを考慮する必要があります。
- 考慮事項:
- 商品原価、製造コスト
- 輸送費、関税、税金
- プラットフォーム手数料、決済手数料
- マーケティング・プロモーション費用
- 為替変動リスク
- 競合の価格帯
- ターゲット顧客の購買力
価格設定には、市場浸透価格戦略(最初は安価に設定)、上澄み吸収価格戦略(最初に高価に設定)、競争ベース価格戦略など、いくつかの方法があります。自社の状況や商品の特性に合わせて最適な戦略を選択します。
ステップ5:販売チャネルの選定と組み合わせ
商品をどこで、どのように販売するかを決定します。すでに「自社サイト型」か「モール型」かを選択している場合でも、具体的なプラットフォームやサイトの構築方法を検討します。
- 自社ECサイト: ブランドイメージを自由に表現でき、顧客データを蓄積しやすいですが、集客は自社で行う必要があります。
- 海外ECモール: Amazon、eBay、Tmall、Shopeeなど、多くの顧客がすでに集まっている場所で販売できます。出店手数料や競争は激しいですが、集客力は魅力です。
- SNS販売: InstagramやFacebookなどのSNSを活用して直接販売する方法です。
- 卸販売: 現地の小売店やオンラインストアに商品を卸す方法も考えられます。
単一のチャネルだけでなく、複数のチャネルを組み合わせる(オムニチャネル戦略)ことも有効です。例えば、自社サイトでブランド体験を提供しつつ、大手モールで認知度と販売数を拡大するといった方法です。
ステップ6:プロモーション・マーケティング戦略
ターゲット顧客に商品やサービスの存在を知らせ、購買意欲を高めるための方法を計画します。
- デジタルマーケティング:
- SEO(検索エンジン最適化): 海外の検索エンジン(Googleなど)で上位表示されるための対策。
- SEM(検索エンジンマーケティング)/リスティング広告: 検索結果ページに広告を掲載。
- SNSマーケティング: ターゲット顧客が多く利用するSNSでの情報発信や広告出稿。
- インフルエンサーマーケティング: 現地のインフルエンサー(影響力のある人物)に商品を紹介してもらう。
- コンテンツマーケティング: ブログや動画などで役立つ情報を発信し、顧客との関係性を構築。
- メールマーケティング: 顧客リストに対して直接メールで情報を届ける。
- オフラインマーケティング:
- 現地の展示会出展、メディア掲載なども検討します(初期段階ではハードルが高い場合もあります)。
どのプロモーション手法が有効かは、ターゲット市場や顧客層によって異なります。効果測定を行いながら、費用対効果の高い手法に注力することが重要です。
ステップ7:顧客体験とサポート体制
海外の顧客が安心して購入できるよう、購入前から購入後までの一連の体験(カスタマーエクスペリエンス)を設計します。
- ウェブサイト/ストアの使いやすさ: ターゲット言語への対応、分かりやすいナビゲーション、スムーズなチェックアウトプロセスなど。
- 決済方法: ターゲット市場で主流の決済方法(クレジットカード、PayPal、現地独自の決済サービスなど)への対応。
- 配送と追跡: 信頼できる配送業者を選定し、顧客が配送状況を確認できるシステムを整備します。送料設定も販売戦略の一部です。
- カスタマーサポート: 問い合わせや返品に対応するための体制(対応言語、対応時間、連絡手段など)を構築します。FAQ(よくある質問)ページの充実も有効です。
海外の顧客は、文化や商習慣の違いから不安を感じやすい場合があります。丁寧で迅速なサポートは、信頼獲得とリピート購入につながります。
中小企業が販売戦略で特に注意すべき点
リソースが限られる中小企業は、以下の点に特に注意して販売戦略を立てる必要があります。
- リソースの集中: 限られた資金、人材、時間を最も効果的な戦略に集中させることが重要です。まずは少数のターゲット市場、特定のチャネル、費用対効果の高いプロモーション手法に絞り込むことも検討します。
- 柔軟性: 計画通りに進まないこともあります。市場の変化や顧客の反応を見ながら、戦略を柔軟に見直していく姿勢が必要です。
- ローカライズの徹底: 商品情報、ウェブサイト、広告文、カスタマーサポートなど、顧客が接触する全ての要素をターゲット市場の言語、文化、習慣に合わせてローカライズすることが、信頼獲得と購買につながります。単なる翻訳ではなく、現地の人が自然だと感じる表現やデザインを心がけます。
- パートナーシップの活用: 現地のマーケティング会社、物流業者、コンサルタントなど、信頼できる外部パートナーの専門知識やネットワークを活用することも有効な戦略です。
成功事例から学ぶヒント
販売戦略を考える上で、成功している企業の事例は参考になります。例えば、ある日本の伝統工芸品メーカーは、特定の国の富裕層をターゲットに絞り込み、高級感を打ち出した自社ECサイトと、現地のインフルエンサーを活用したプロモーションを展開することで成功しました。彼らは、単に商品を販売するだけでなく、製品に込められた職人の想いや日本の文化といった「ストーリー」を伝えることを重視し、顧客の共感を呼んだのです。
また、別の事例では、ある食品メーカーが、特定の海外モールの食品カテゴリーに出店し、現地の食文化に合わせたレシピ提案や、試しやすい少量パックでの販売から開始しました。これにより、初期のリスクを抑えつつ、顧客の反応を見ながら商品ラインナップや販売戦略を調整していきました。
これらの事例から学べるのは、「誰に」「何を」「どのように」提供するかを明確にし、ターゲットに合わせた戦略を実行することの重要性です。そして、必ずしも最初から完璧を目指す必要はなく、小さく始めて顧客の反応を見ながら改善していくアプローチも有効であるということです。
まとめ
越境ECにおける販売戦略の策定は、成功に向けた非常に重要なプロセスです。ターゲット市場と顧客を深く理解し、競合を分析した上で、自社の商品が提供する価値を明確にし、適切な価格、販売チャネル、プロモーション方法を選択することが求められます。
特に中小企業は、限られたリソースを最大限に活かすため、戦略を絞り込み、柔軟に対応していくことが重要です。本稿で解説したステップを参考に、ぜひ自社の越境EC販売戦略を具体的に検討してみてください。計画を実行に移した後も、常に市場や顧客の反応を観察し、戦略を継続的に改善していく姿勢を持つことが、海外市場での持続的な成長につながるでしょう。