中小企業向け越境EC:海外市場で売れるヒントを見つける「トレンドリサーチ」入門
はじめに:なぜ越境ECに「トレンドリサーチ」が必要なのか
越境ECを検討されている皆様にとって、「海外で何が売れるのか」「どの市場が有望なのか」は、最初に抱く大きな疑問ではないでしょうか。自社の商品やサービスに自信があっても、それがそのまま海外市場で受け入れられるとは限りません。文化、習慣、気候、流行、競合状況など、日本国内とは異なる様々な要因が影響するからです。
こうした不確実性を減らし、成功の可能性を高めるために不可欠なのが「トレンドリサーチ」です。海外市場のトレンドを理解することは、単に流行を追いかけるだけでなく、現地の顧客が何を求めているのか、どのような課題を抱えているのかといった、より深いニーズを把握することに繋がります。この情報に基づき、展開する市場、扱う商品、販売戦略などを決定することで、感覚ではなくデータに基づいた経営判断が可能となります。
この記事では、初めて越境ECに挑戦される中小企業経営者の皆様が、海外市場のトレンドをどのように見つけ、どのようにビジネスに活かしていくかについて、基本的なステップと具体的な方法を分かりやすく解説します。
越境ECにおけるトレンドリサーチの基本的なステップ
トレンドリサーチと聞くと難しく感じるかもしれませんが、基本的な流れを理解すれば、着実に進めることができます。ここでは、中小企業でも取り組みやすい4つのステップをご紹介します。
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リサーチ目的の明確化: 最初に、「何を知りたいのか」を具体的にします。例えば、「どの国・地域で自社の商品カテゴリーにニーズがあるか」「ターゲットとする国の消費者が今、どのようなものに関心を持っているか」「競合他社はどのような商品を扱っているか」などです。目的が明確であれば、効率的に情報収集を進めることができます。
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情報ソースの選定と収集: 次に、目的達成のために必要な情報がどこにあるかを考え、実際に情報を集めます。インターネット上の無料ツール、政府機関や市場調査会社のデータ、現地のメディアやSNSなど、様々な情報ソースがあります。最初から全てを利用する必要はありません。自社のリソースに合わせて、取り組みやすい方法から始めましょう。具体的な情報ソースについては、後ほど詳しく解説します。
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収集した情報の分析: 集めた情報は、そのまま鵜呑みにするのではなく、批判的な視点を持って分析することが重要です。複数の情報ソースから同じ傾向が見られるか、情報の出所は信頼できるかなどを確認します。表面的な流行だけでなく、その背景にある消費者の価値観やライフスタイルの変化まで掘り下げて考察することで、より本質的なニーズが見えてきます。
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示唆の抽出と経営判断への活用: 分析結果から、自社の越境EC事業にとってどのような示唆が得られるかを考えます。「この国では環境に配慮した商品への関心が高い」「この層にはSNSを通じた情報発信が効果的だ」といった具体的な発見を、事業計画や商品開発、マーケティング戦略などに反映させます。リサーチはして終わりではなく、ビジネスに活かして初めて価値が生まれます。
中小企業が活用しやすいトレンドリサーチの方法・ツール
ここでは、特別な専門知識や高額な費用をかけずに始められる情報収集の方法を中心に、いくつかご紹介します。
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無料の検索トレンドツール活用
- Googleトレンド: 世界中のGoogle検索データから、特定のキーワードやトピックの関心度がどのように変化しているか、国・地域別に調べることができます。自社の商品カテゴリーや関連キーワードが、海外のどの地域で、いつ頃から注目されているかといった大まかな傾向を掴むのに役立ちます。
- 海外Amazonなどのランキング: アメリカ、ドイツ、中国(Amazon.cnは閉鎖しましたが、現地の有力ECモールは参考になります)、各国のAmazonサイトには、ベストセラーランキングや新着ランキングがあります。自社の商品カテゴリーが、ターゲット国でどのように売れているか、どのような商品が人気かを知る手掛かりになります。
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公的機関や業界団体のレポート
- JETRO(日本貿易振興機構): JETROのウェブサイトでは、各国の市場情報や消費者トレンドに関するレポート、貿易統計データなどが多数公開されています。中小企業が無料で利用できる情報源として非常に有用です。
- 各種業界団体: 自社の属する業界の海外団体や、海外の調査機関が発表するレポートも参考になります。
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海外のECモールや競合サイトの調査 ターゲット候補となる国の主要なECモール(Amazon, eBay, Shopifyで構築された現地サイトなど)を実際に見て回ることで、どのような商品が、どのような価格帯で、どのように販売されているかを知ることができます。競合となり得る現地の企業や、既に越境ECで成功している他社のサイトを参考にすることも有益です。
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海外のSNSやメディア Instagram, Facebook, Twitter(現X), TikTokなど、ターゲット国でよく利用されているSNSを観察することで、現地の人々がリアルに何に関心を持ち、どのようなライフスタイルを送っているかの「生の声」や流行の兆しを掴むことができます。現地のニュースサイトやブログなども、社会や文化のトレンドを理解する上で役立ちます。
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市場調査レポートの活用(有料含む) 専門の市場調査会社が作成したレポートは、特定の市場や業界に関する詳細かつ網羅的な情報が含まれています。高額な場合が多いですが、JETROなどが提供するレポートの中には、比較的安価または無料で入手できるものもあります。本格的に参入を検討する際には、こうした質の高い情報を活用することも検討できます。
トレンドリサーチを行う上での注意点
トレンドリサーチは有用ですが、いくつか注意すべき点があります。
- 情報の信頼性を確認する: インターネット上の情報は玉石混交です。複数の情報ソースを照らし合わせたり、信頼できる公的機関や専門家の情報を参照したりして、情報の正確性を確認することが重要です。
- 表面的な流行に惑わされない: 短期的な流行に飛びつくだけでは、ビジネスとして継続が難しい場合があります。そのトレンドが生まれた背景や、長期的な視点での市場の変化を見極めるように努めましょう。
- 自社の強みや商品との適合性を考える: 魅力的なトレンドが見つかっても、それが自社の強みや提供できる商品・サービスと合致しているかが最も重要です。トレンドに合わせて無理に商品を開発するのではなく、自社のリソースで対応可能か、持続可能なビジネスになるかを冷静に判断してください。
- リサーチは継続的に行う: 市場のトレンドは常に変化します。一度リサーチすれば終わりではなく、定期的に情報収集と分析を行うことで、常に最新の市場ニーズに対応できるようになります。
トレンドリサーチの結果を経営判断に活かす
収集・分析したトレンド情報は、越境EC事業の様々な側面に活かすことができます。
- ターゲット市場の最終決定: どの国や地域に参入するかを決める際に、その市場のポテンシャルや自社商品の受け入れられやすさを判断する材料となります。
- 商品戦略の立案: 現地のニーズに合わせて、既存商品を改良するか、新商品を開発するか、どのような価格設定にするかなどを検討します。
- マーケティング・プロモーション戦略: ターゲット顧客がどのような情報源を利用し、どのようなメッセージに反応するかを理解し、効果的な広告やSNS活用、インフルエンサーマーケティングなどの戦略を立てます。
- ローカライズの方向性: 現地の文化や習慣、言語的なニュアンスを理解することで、ウェブサイトや商品情報のローカライズ(現地最適化)の質を高めることができます。
- リスク管理: 特定の市場における法規制のトレンドなどを早期に察知し、対応策を講じることで、予期せぬトラブルを避けることに繋がります。
まとめ:トレンドリサーチで越境ECの羅針盤を得る
越境ECは未知の市場への挑戦であり、不安を感じることも当然です。しかし、適切なトレンドリサーチを行うことで、闇雲に進むのではなく、羅針盤を持って航海に臨むことができます。
中小企業にとって、リサーチにかけられる時間や費用は限られているかもしれません。しかし、ご紹介したような無料ツールや公的機関の情報を活用することからでも、十分に価値ある情報を得ることが可能です。最初から完璧を目指す必要はありません。まずはできる範囲で情報収集を始め、少しずつその範囲を広げていくことをお勧めします。
海外市場のトレンドを理解し、自社のビジネスにどう活かすかを検討するプロセスは、越境EC成功への重要な第一歩となります。ぜひ、この記事でご紹介したステップや方法を参考に、貴社の越境EC事業にお役立てください。