初めての越境EC:海外での集客を最大化するSEOとSEMの基本【中小企業向け】
越境ECを始める際、商品の選定やサイト構築、物流の準備など多くの課題に直面されます。しかし、これらの準備が整っても、海外の顧客に自社サイトを見つけてもらえなければ、売上には繋がりません。そこで重要となるのが、インターネット上での「集客」です。
本記事では、越境ECにおける集客の二大柱である「検索エンジン最適化(SEO)」と「検索エンジンマーケティング(SEM)」について、中小企業経営者の皆様が知っておくべき基本的な知識と、具体的な進め方、そして経営判断のポイントを分かりやすく解説いたします。
1. 越境ECにおける集客の重要性
日本国内で事業を展開されている皆様にとって、顧客は自然と集まってくる、あるいは既存の営業チャネルで獲得できるかもしれません。しかし、越境ECの場合、海外の消費者には自社の存在が知られていないことがほとんどです。
インターネットが主な情報源となる海外の消費者に対し、自社の商品やサービスを見つけてもらうためには、検索エンジンからのアクセスを増やすことが非常に重要となります。世界のインターネット利用者の多くが、Google、Bing、あるいは各地域に特化した検索エンジン(例:中国のBaidu、ロシアのYandexなど)を利用して情報を探しています。この検索エンジンからの流入を最大化するための施策が、SEOとSEMです。
2. 検索エンジン最適化(SEO)の基本と越境ECでのポイント
SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)とは、検索エンジンの検索結果において、自社のウェブサイトがより上位に表示されるよう改善する一連の取り組みです。検索上位に表示されることで、多くのユーザーが自社サイトを訪問する可能性が高まります。
2.1. SEOの主な要素
SEOには、主に以下の要素が含まれます。
- キーワード選定: ターゲットとなる海外の顧客が、どのような言葉(キーワード)で検索するかを予測し、選定します。例えば、日本の「伝統工芸品」を海外に販売する場合、英語圏では "Japanese traditional crafts" や "authentic Japanese gifts" など、文化や地域によって検索語句が異なります。
- 技術的SEO: 検索エンジンのクローラー(サイト情報を読み取るプログラム)がサイトを適切に認識し、評価できるように、ウェブサイトの構造や設定を最適化します。具体的には、サイトの表示速度の向上、モバイル端末への対応(レスポンシブデザイン)、サイトマップの設置、多言語サイトであることを示す
hreflang
タグの設定などが含まれます。 - コンテンツSEO: ユーザーが求めている情報を提供する、質の高いコンテンツ(文章、画像、動画など)を作成します。ターゲット国の言語で、現地の文化や習慣に配慮した魅力的な商品紹介やブログ記事などを継続的に公開することが重要です。
- 被リンク(外部対策): 信頼性の高い他のウェブサイトから自社サイトへのリンク(被リンク)を獲得することで、検索エンジンからの評価を高めます。これは、自社サイトが価値ある情報を提供している証拠とみなされます。
2.2. 越境ECにおけるSEOの経営判断ポイント
- 長期的な視点と継続性: SEOは即効性のある施策ではありません。効果が出るまでに数ヶ月から1年以上かかることもあります。しかし、一度上位表示されれば、持続的な集客効果が期待できます。
- 専門知識の必要性: SEOには専門的な知識が必要となるため、社内に知見がない場合は、外部のSEOコンサルティング会社や専門家に依頼することも検討が必要です。
- ターゲット国の検索エンジン対策: Googleが主流でない国(例:中国のBaidu、ロシアのYandexなど)に展開する場合は、その国の検索エンジンの特性に合わせたSEO対策が必要になります。
3. 検索エンジンマーケティング(SEM)の基本と越境ECでのポイント
SEM(Search Engine Marketing:検索エンジンマーケティング)は、検索エンジンを活用した集客施策の総称です。一般的には、SEOに加えて「検索連動型広告(リスティング広告)」を指すことが多いです。リスティング広告は、ユーザーが検索したキーワードに応じて、検索結果ページの上部や下部に表示される有料広告です。
3.1. SEM(リスティング広告)の主な要素
- 即効性: 広告費を支払うことで、すぐに検索結果の上位に表示させることが可能です。新商品のテストマーケティングや、短期的なキャンペーンなどで効果を発揮します。
- 明確なターゲティング: キーワード、地域、言語、時間帯、デバイスなど、細かくターゲットを設定し、特定のユーザー層に効率的に広告を配信できます。
- 費用対効果の管理: クリック数や表示回数、コンバージョン(商品購入など)といったデータをリアルタイムで確認し、広告費に対する効果を測定できます。予算に応じて広告の配信を調整することも可能です。
3.2. 越境ECにおけるSEMの経営判断ポイント
- 予算管理の重要性: 広告は費用がかかります。日々の予算を適切に設定し、費用対効果を見ながら継続的に改善していくことが不可欠です。
- テストと改善の繰り返し: どのようなキーワードや広告文が、どの地域で最も効果を発揮するかは、実際に広告を運用してみなければ分かりません。少額から始め、様々なパターンを試しながら、効果の高いものに予算を集中させていく「PDCAサイクル」を回すことが重要です。
- 現地の文化・商習慣の理解: 広告文を作成する際は、ターゲット国の文化や商習慣を理解し、現地の消費者に響く表現を用いることが成功の鍵となります。誤解を招く表現や、不適切な表現は避けるべきです。
4. SEOとSEM、中小企業はどちらを優先すべきか?
SEOとSEMはそれぞれ異なる特性を持つため、どちらか一方に絞るのではなく、それぞれの強みを理解して組み合わせることが、越境ECにおける集客を成功させる上で最も効果的です。
- スモールスタートの場合: まずはSEM(リスティング広告)を活用し、少額の予算でテストマーケティングを行うことをお勧めします。どの国で、どの商品が、どのようなキーワードで売れるのかを短期間で検証できます。
- 中長期的な成長を見据える場合: SEMで得られたデータ(売れるキーワードやターゲット層)を参考にしながら、並行してSEOにも取り組むと良いでしょう。SEOで上位表示されることで、広告費をかけずに安定したアクセスを獲得できるようになります。
経営判断としては、初期段階ではSEMで「速やかな検証」を行い、その成果を元にSEOで「持続的な成長基盤」を築くという段階的なアプローチが、リスクを抑えつつ効果を最大化する道と言えます。
5. 具体的な始め方と経営者が押さえるべきポイント
5.1. ターゲット市場の選定と検索エンジンの確認
まずは、どの国で越境ECを展開するかを明確にし、その国で主要な検索エンジンが何かを確認しましょう。多くの国ではGoogleが主流ですが、そうでない地域も存在します。
5.2. キーワード調査の徹底
ターゲット国の言語で、自社の商品やサービスに関連するキーワードを徹底的に調査します。現地の文化や習慣、流行に合わせたキーワードを見つけることが重要です。無料のツールや、有料の専門ツールを活用して、月間検索ボリューム(そのキーワードが月に何回検索されるか)なども確認すると良いでしょう。
5.3. 多言語サイトの技術的な準備
多言語対応のサイトを構築する際は、検索エンジンが各言語のページを正しく認識できるよう、hreflang
タグの適切な設定や、各言語ページのURL構造(例: example.com/en/
や en.example.com
など)を考慮する必要があります。
5.4. 予算設定と効果測定
SEOとSEMにどれくらいの予算を割くのかを明確に設定し、定期的に効果を測定しましょう。 Google Analyticsなどのアクセス解析ツールを活用し、どのチャネルから顧客が来ているか、どのキーワードで流入しているか、そして最終的にどれだけ購入に至ったかを把握することが、次の施策に繋がります。
5.5. 外部専門家活用の検討
SEOやSEMには専門的な知識や継続的な運用が必要です。社内に専門人材がいない場合は、越境ECの実績があるマーケティング会社やコンサルタントに相談することも有効な選択肢です。ただし、依頼する際は、実績や料金体系、コミュニケーションの取り方などを十分に確認し、自社に合ったパートナーを見極めることが重要です。
6. 越境ECにおけるSEO・SEMの成功事例と教訓
6.1. 成功事例:ニッチな市場をSEOとSEMで開拓した食品メーカー
ある日本の中小食品メーカーは、特定の健康食品を海外に販売する越境ECを開始しました。初期は知名度が全くなかったため、まずGoogle広告(SEM)で「健康食品+特定の効能」といったニッチなキーワードで広告を配信。これにより、短期間で実際にニーズがある層からのアクセスを獲得し、売れ筋商品や効果的なキーワードを特定しました。 その後、SEMで得られたデータを基に、ターゲット層が関心を持つであろう健康に関するブログ記事を多言語で展開し、関連するキーワードでのSEO対策を強化しました。結果として、広告費を抑えつつ、オーガニック検索(SEOによる無料のアクセス)からの安定した集客基盤を確立し、売上を継続的に伸ばしています。
学ぶべき教訓: SEMで素早く仮説検証を行い、そのデータをもとにSEOで持続的な成長を目指すという、段階的なアプローチが有効です。ニッチな市場でも、適切なキーワード戦略で海外顧客にリーチできる可能性があります。
6.2. 失敗事例:ローカライズ不足でSEOが機能しなかったアパレル企業
ある中小アパレル企業は、越境ECサイトを立ち上げ、SEO対策として多くの英語のキーワードを詰め込んだコンテンツを作成しました。しかし、サイトの翻訳が機械翻訳に頼りすぎて不自然であったり、サイズ表記が日本の規格のままであったりと、海外の顧客にとって使いづらい点が多々ありました。 その結果、検索エンジンから見てもコンテンツの質が低いと判断され、またサイトに訪れたユーザーもすぐに離脱してしまい、SEOによる効果はほとんど見られませんでした。多額の広告費を投じても、ローカライズ不足のサイトではコンバージョンに繋がりませんでした。
学ぶべき教訓: SEOやSEMは、ウェブサイト自体の「品質」が前提となります。特に越境ECでは、ターゲット国の文化や言語、習慣に合わせた「ローカライズ」が非常に重要です。いくら集客しても、サイトが使いにくければ売上には繋がりません。技術的なSEOだけでなく、コンテンツの質とユーザー体験(UX)のローカライズを重視すべきです。
まとめ
越境ECにおいて、海外の顧客に自社サイトを見つけてもらい、商品を購入してもらうためには、SEOとSEMの適切な活用が不可欠です。SEOは長期的な視点での安定した集客を、SEMは短期的な効果測定や即効性のある集客を可能にします。
中小企業経営者の皆様におかれましては、これらの特性を理解し、自社のリソースや目標に合わせて最適なバランスで取り組むことが成功への鍵となります。まずはスモールスタートでSEMから始め、海外顧客のニーズを肌で感じながら、SEOで盤石な集客基盤を構築していくことをお勧めします。焦らず、着実にこれらの施策を進めることで、越境ECでの海外展開を着実に成功に導くことができるでしょう。