越境ECに潜むリスクとは?中小企業が知っておくべき対策と準備
越境ECは、国内市場の縮小が懸念される中で、新たな販路を開拓し事業拡大を図る有効な手段の一つとして注目されています。しかし、海外市場への挑戦には、国内での事業とは異なる様々なリスクが伴います。特に初めて越境ECに取り組む中小企業にとって、これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることが成功への重要な鍵となります。
本記事では、中小企業が越境ECを進める上で直面しうる主なリスクと、それらに対する具体的な対策や準備について解説します。
越境ECにおける主なリスク
越境ECには、単に商品を海外に販売するだけでなく、文化、法律、物流、決済など、多岐にわたる側面でリスクが潜んでいます。主なリスクカテゴリとその具体例を以下に示します。
1. 市場・文化・言語に関するリスク
- 需要予測の困難さ: 現地の嗜好やトレンドが掴みにくく、思ったように商品が売れない可能性があります。
- ローカライズの失敗: 商品説明やサイトデザインが現地の文化や言語に適しておらず、顧客に受け入れられないことがあります。「ローカライズ」とは、単なる翻訳ではなく、ターゲット市場の文化、習慣、言語、法律などに合わせて製品やサービス、コンテンツなどを調整することです。
- ターゲット設定の誤り: どの国・地域をターゲットにするかの判断を誤ると、市場が見込めない場合があります。
2. 法規制・税金に関するリスク
- 各国の輸入規制・認証: 商品によっては、輸出先の国独自の輸入規制や安全基準、認証を満たす必要があります。これらを確認しないと、税関で差し止められる可能性があります。
- 関税・消費税: 輸出品には関税がかかるのが一般的です。また、輸出先の国や地域によっては、付加価値税(VAT)や消費税などが課されます。これらの計算や納付を誤ると、罰金などが科されるリスクがあります。
- 知的財産権: 現地で自社のブランド名やデザインが既に登録されていたり、模倣されたりするリスクがあります。
- 個人情報保護規制: 各国の個人情報保護に関する法規制(例: EUのGDPRなど)を遵守する必要があります。違反すると、多額の罰金につながる可能性があります。
3. 物流・配送に関するリスク
- 高額な送料: 国際配送は国内配送に比べて送料が高く、利益を圧迫する要因となります。
- 配送遅延・紛失・破損: 海外への長距離輸送では、国内に比べて配送遅延、商品の紛失、破損のリスクが高まります。
- 返品・返金対応: 海外からの返品は、送料が高く、手続きも煩雑になりがちです。また、商品の状態確認や返金処理にも時間がかかります。
- 税関手続きの複雑さ: 輸出入に関わる税関手続きは複雑で、書類に不備があると配送が滞る原因となります。
4. 決済・為替に関するリスク
- 決済手段の不足: ターゲット市場で一般的な決済手段に対応していないと、顧客が購入を諦める可能性があります。
- 不正利用(チャージバック): クレジットカードの不正利用などによるチャージバック(購入者からの異議申し立てにより、代金が強制的に返還されること)のリスクがあります。
- 為替変動リスク: 外貨で取引する場合、注文時と入金時、あるいは仕入れ時と販売時などで為替レートが変動し、利益が目減りしたり、損失が発生したりするリスクがあります。
5. トラブル・クレーム対応のリスク
- カスタマーサポート体制: 言語や文化の違いから、顧客からの問い合わせやクレームへの対応が難しくなる場合があります。迅速かつ適切な対応ができないと、信頼失墜につながります。
- コミュニケーションの誤解: 文化的な背景の違いにより、意図しない誤解が生じ、トラブルに発展する可能性があります。
6. システム・セキュリティに関するリスク
- システム障害: 海外からのアクセス増によるサーバー負荷増や、プラットフォーム自体のシステム障害により、販売機会を失う可能性があります。
- サイバー攻撃: 不正アクセスによる顧客情報漏洩や、サイトの改ざんなどのリスクがあります。
中小企業が取り組むべき対策と準備
これらのリスクを完全にゼロにすることは困難ですが、適切な準備と対策を行うことで、リスクを最小限に抑え、安心して越境ECに取り組むことができます。
1. 徹底した情報収集と計画策定
- ターゲット市場の選定と調査: どの国・地域に商品を販売するかを慎重に選び、現地の市場規模、競合、消費者ニーズ、文化、一般的な商習慣などを徹底的に調査します。
- 法規制・税金の確認: 進出先の国の輸入規制、製品安全基準、関税、消費税、個人情報保護規制などを事前に専門家(国際税務に詳しい税理士、弁護士など)に相談して確認します。
- 事業計画の策定: ターゲット市場、販売チャネル(自社サイト、モール出店など)、取り扱い商品、価格設定、ローカライズ戦略、物流・決済方法、費用、想定されるリスクとその対策などを具体的に計画します。
2. 信頼できるパートナーの選定と活用
- 越境ECプラットフォームの選定: リスク対策機能(不正決済防止、多言語対応、関税・税金計算機能など)が充実している、実績のあるプラットフォームを選びます。
- 物流パートナー: 国際配送の実績が豊富で、追跡サービスや保険などが充実している信頼できる物流業者を選びます。返品対応についても事前に確認します。
- 決済代行業者: 不正利用対策(不正検知システムなど)がしっかりしている決済代行業者を選びます。対応している決済手段や為替手数料なども確認します。
- 専門家への相談: 法務、税務、関税、知的財産権など、専門的な知識が必要な領域については、迷わず専門家(弁護士、税理士、コンサルタントなど)に相談します。
3. 体制の整備と準備
- ローカライズの実施: サイトコンテンツ、商品情報、メールなどの顧客とのコミュニケーションが現地の言語と文化に合っているか確認し、必要に応じて修正します。専門の翻訳会社やローカライズサービスを利用することも検討します。
- カスタマーサポート体制: 問い合わせやクレームに迅速に対応できるよう、対応言語、受付時間、対応フローなどを整備します。必要に応じて現地のサポート代行サービスを利用します。
- 返品・返金ポリシーの明確化: 返品・交換・返金に関するルールを明確に定め、サイト上で分かりやすく表示します。各国の消費者保護法規も考慮します。
- セキュリティ対策: ECサイトや顧客情報データベースへの不正アクセスを防ぐため、SSL(通信の暗号化)の導入、定期的なシステムアップデート、アクセス制限などのセキュリティ対策を実施します。
- 保険の検討: 輸送中の商品の破損や紛失、あるいは個人情報漏洩などのリスクに備え、各種保険(貨物保険、サイバー保険など)への加入を検討します。
リスクを最小限に抑えるための経営判断
越境ECのリスクは、裏を返せば「海外市場という未知の領域に挑戦すること」自体に起因します。中小企業がこのリスクとうまく向き合うためには、以下の経営判断が重要になります。
- スモールスタートの重要性: 最初から多額の投資をせず、特定の国・地域に絞ってテスト的に販売を開始するなど、スモールスタートを心がけます。これにより、大きな失敗のリスクを抑えつつ、実地で学びを得ることができます。
- 外部リソースの活用判断: 社内に越境ECに関する専門知識や経験がない場合は、無理に内製化しようとせず、外部の専門家やサービス(越境ECプラットフォーム、コンサルティング会社、物流業者など)を積極的に活用することを検討します。コストはかかりますが、リスク軽減と早期立ち上げにつながります。
- 撤退基準の明確化: 挑戦する上で、「いつまで」「いくらまで」投資するか、あるいは「どの時点で」撤退を判断するかといった基準を事前に定めておくことも重要です。これにより、リスクを限定し、損失の拡大を防ぐことができます。
結論
越境ECには確かに様々なリスクが伴いますが、これらのリスクを正しく理解し、適切な対策と事前の準備を講じることで、多くの部分は回避または軽減することが可能です。
特に中小企業にとっては、限られた経営資源の中で、どこにリスクがあるのかを見極め、優先順位をつけて対策を進めることが求められます。焦らず、一つ一つのステップを着実に進め、必要に応じて外部の知見やサービスを活用しながら、越境ECへの挑戦を着実に進めていただければ幸いです。
リスクを乗り越えた先には、国内市場だけでは得られない大きなビジネスチャンスが広がっていることでしょう。