【中小企業向け】越境ECプロジェクト、計画通り進んでる?経営者が把握すべき進捗管理の基本
越境ECプロジェクト、動き出したらどうする?経営者が知るべき進捗管理の基本
越境ECへの挑戦を決断し、計画を立て、プロジェクトがスタートしたとしても、「これで安心」とはいきません。プロジェクトは動き始めてからが本番です。計画通りに進んでいるか、何か問題は起きていないか、予算は適切に使われているかなどを定期的に確認し、必要に応じて舵を切る「進捗管理」が非常に重要になります。
特に、越境ECは国内ECとは異なり、言語、文化、法律、物流など、考慮すべき要素が多く複雑です。予期せぬ問題が発生する可能性も高まります。経営者として、プロジェクトの現場に任せきりにするのではなく、大局を把握し、適切なタイミングで経営判断を下すことが成功の鍵を握ります。
この記事では、初めて越境ECに挑戦する中小企業経営者の方向けに、プロジェクトの進捗管理において最低限把握しておくべき基本と、確認すべきポイントを分かりやすく解説します。
越境ECプロジェクトの主なフェーズと経営者のチェックポイント
越境ECプロジェクトは、いくつかの段階を経て進んでいきます。各段階で、経営者が特に注意して確認すべき点があります。ここでは、一般的なプロジェクトの流れと、それぞれのフェーズにおけるチェックポイントを見ていきましょう。
1. 計画・準備フェーズ:土台はしっかりできているか?
このフェーズでは、市場調査、ターゲット顧客の定義、販売戦略の策定、商品選定、予算計画、社内体制の構築、外部パートナーの選定など、プロジェクトの根幹となる部分を固めます。
- 経営者のチェックポイント:
- 計画の具体性: 誰が、何を、いつまでに、どれくらいの予算で実行するのか、目標は何か(どのような状態を目指すのか)が明確に言語化されているか?
- リスクの洗い出しと対策: 想定されるリスク(例:為替変動、配送トラブル、予期せぬ法規制、競争激化など)は十分に検討され、それに対する備えや代替案は考えられているか?
- 予算とリソース: 計画実行に必要な費用は適切に見積もられているか?資金は確保できているか?プロジェクト遂行に必要な人員や専門知識(社内・外部含む)は確保できる見込みか?
- 目標の妥当性: 設定した売上目標や利益目標は、市場規模や自社の能力を考慮して現実的か?
この段階で計画が曖昧だったり、リスクや予算の検討が甘かったりすると、後々のフェーズで大きな問題が発生しやすくなります。最初の土台作りが非常に重要であることを認識してください。
2. 構築・実装フェーズ:計画は実行に移されているか?
選定したプラットフォームでのサイト構築、商品の海外仕様への準備(説明文翻訳、写真撮影など)、決済システムや物流システムとの連携、ローカライズの実施など、計画を実行に移していく段階です。多くの作業が並行して進みます。
- 経営者のチェックポイント:
- 全体進捗の把握: 各作業が計画通りに進んでいるか?主要なマイルストーン(中間目標地点)は達成できているか?遅延が発生している場合は、その原因と対策、回復の見込みは報告されているか?
- 品質の確認: 構築中のウェブサイトはターゲット市場の顧客にとって使いやすいか?(可能であれば実際に見てみる、テスト利用する)商品情報は正確に、魅力的に伝わるようにローカライズされているか?
- コストの確認: 契約した外部パートナーへの支払いや、ツールの利用料など、想定内の費用で収まっているか?予期せぬ追加費用は発生していないか?
- 問題発生時の報告と対応: 技術的な問題、外部パートナーとの連携問題など、何らかのトラブルが発生した場合、速やかに報告が上がり、その原因と対応策、影響度(予算、納期など)が共有されているか?
- 関係者とのコミュニケーション: 社内の担当者、外部のウェブ制作会社や翻訳会社、物流会社など、関係者間の連携はスムーズか?情報共有の仕組みは機能しているか?
このフェーズでは、細部にこだわりすぎず、大まかな進捗と、プロジェクトの根幹に関わるような問題が発生していないかを確認する視点が重要です。担当者からの報告を鵜呑みにせず、疑問点は確認しましょう。
3. ローンチ(公開)フェーズ:無事にスタートを切れたか?
構築したサイトやシステムが完成し、いよいよ海外市場に向けて公開する段階です。
- 経営者のチェックポイント:
- 公開直前の最終チェック: サイトは正常に表示されるか?注文から決済、自動返信メールまで一通りの流れは問題ないか?主要なページの表示やリンク切れはないか?
- 初期トラブルへの備え: 公開直後は予期せぬシステムトラブルや顧客からの問い合わせが増える可能性があります。対応できる体制は整っているか?
- 告知・プロモーション開始: 計画していた海外向け告知やプロモーションは予定通り開始されているか?
ローンチはゴールではなく、スタート地点です。ここから本格的な運用が始まります。
4. 運用・改善フェーズ:軌道に乗せるための活動はできているか?
公開後、実際に海外からの注文を受け付け、商品を発送し、顧客からの問い合わせに対応し、さらに売上を伸ばすための集客活動やサイト改善を継続していく段階です。
- 経営者のチェックポイント:
- KPI(重要業績評価指標)の確認: 事前に設定した目標(例:サイト訪問者数、海外からの注文数、売上高、顧客獲得コスト、利益率など)に対して、現在の数値はどうなっているか?良い点、悪い点はどこか?
- 【補足:KPIとは】Key Performance Indicatorの略で、「重要業績評価指標」と訳されます。ビジネスの目標達成度を測るための具体的な数値目標や指標のことです。
- データ分析の状況: サイトへのアクセス状況、どの国からのアクセスが多いか、どの商品が売れているか、どのページで離脱が多いか、といった基本的なデータは取得・分析できているか?
- 海外顧客からの反応: 問い合わせの内容、レビュー、SNSでの評判など、海外顧客からの直接的な声は把握できているか?
- 改善活動: データ分析や顧客からの声を元に、サイトの改善(表示速度向上、分かりにくい箇所の修正など)、商品ラインナップの見直し、プロモーション方法の変更といった「PDCAサイクル」は回せているか?
- 【補足:PDCAサイクルとは】Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の頭文字を取ったビジネス改善手法です。計画に基づいて実行し、その結果を評価して、次の改善につなげるサイクルを繰り返します。
- コストと収益: 集客にかかる費用、物流費、決済手数料、人件費などのコストに対して、売上・利益は見合っているか?採算は取れているか?
- 市場や競合の変化: ターゲット市場のトレンドに変化はないか?競合他社の動きはどうなっているか?
- KPI(重要業績評価指標)の確認: 事前に設定した目標(例:サイト訪問者数、海外からの注文数、売上高、顧客獲得コスト、利益率など)に対して、現在の数値はどうなっているか?良い点、悪い点はどこか?
運用フェーズは終わりがありません。常に状況を把握し、変化に対応しながら改善を続けることが、長期的な成功につながります。
経営者が押さえるべき進捗管理の「視点」
単に進捗報告を聞くだけでなく、経営者としてプロジェクト全体を俯瞰し、判断を下すために重要な視点がいくつかあります。
- 「数値」で現状を把握する: 「順調です」「頑張っています」といった定性的な報告だけでなく、KPIなどの具体的な数値で状況を把握しましょう。売上目標に対してどれくらい達成できているか、広告費に対してどれだけ売上が上がっているか(ROASなど)、といった客観的な数値は、正確な現状認識と次の意思決定に不可欠です。
- 「リスク」を常に意識する: 当初洗い出したリスクが顕在化していないか、また、新たなリスクが発生していないかを常に確認します。例えば、為替の急変動、配送コストの高騰、ターゲット国の予期せぬ規制変更などです。リスクが顕在化しそうな場合は、事前に考えておいた対策を実行する指示を出したり、新たな対策を検討したりする必要があります。
- 「費用対効果」を見極める: かけている時間、労力、予算に対して、期待される成果は見込めるか?特定の活動(例:海外向けSNS広告、特定の国へのテスト販売)が計画通りに進んでいても、その費用対効果が見合わない場合は、やり方を変更したり、中止したりといった判断が必要になります。
- 「撤退基準」を頭に入れておく: 越境ECへの挑戦は、常に成功が保証されるわけではありません。万が一、当初想定した目標達成が極めて困難になった場合、いつ、どのような状況になったら撤退を検討するのか、という基準を事前に社内で共有しておくことも、リスク管理の一環として重要です。冷静な経営判断を下すためにも、感情的にならずに判断できる基準が必要です。
進捗遅延や問題発生時の経営判断
越境ECプロジェクトにおいて、計画通りに全てが進むことは稀です。予期せぬ遅延や問題は発生するものと考えておくべきです。重要なのは、問題が発生した際に、速やかに原因を特定し、適切な経営判断を下すことです。
担当者からの「〇〇が遅れています」「△△で問題が発生しました」という報告を受けた際には、以下の点を冷静に確認しましょう。
- 問題の具体的内容と原因: 何が、なぜ問題なのか?根本的な原因はどこにあるのか?(例:特定の外部パートナーとの連携不備、社内リソース不足、想定外の技術的な壁、法規制の変更など)
- プロジェクト全体への影響: その問題は、納期、予算、品質にどれくらい影響を与えるのか?他の作業への波及効果はあるか?
- 提案されている対策: 担当者や外部パートナーから、その問題に対する対策は提案されているか?その対策は現実的か?実行した場合の効果と副作用は?
- 経営者としての判断: 提案された対策を受け入れるか?別の対策を検討させるか?プロジェクト計画そのものを見直す必要があるか?(例:納期を遅らせる、予算を追加する、目標を下方修正するなど)
問題解決には、経営者を含めた関係者間の迅速かつ正確な情報共有と、建設的な議論が不可欠です。問題から目を背けず、早期に、かつ冷静に対応することが、被害を最小限に抑えることにつながります。
まとめ:経営者の関与がプロジェクト成功の推進力となる
越境ECプロジェクトの進捗管理は、単にスケジュール通りに進んでいるかを確認するだけではありません。経営者自身がプロジェクトの状況を定期的に把握し、数値データに基づいた客観的な視点を持ち、発生した問題に対して適切なタイミングで判断を下すことが、プロジェクトを成功に導くための重要な要素です。
現場担当者や外部パートナーに任せきりにせず、経営者として積極的に関与し、適切なタイミングで必要なリソースや判断を提供することで、プロジェクトはより計画通り、あるいは計画以上の成果を目指して進んでいくでしょう。越境ECという新たな挑戦を成功させるため、進捗管理の基本を理解し、実践していきましょう。