初めての越境EC:サイト公開後にやるべき「運用・改善」の基本ステップ【中小企業向け】
越境ECサイトの公開は、海外展開の第一歩に過ぎません。サイトを立ち上げた後、どのように運用し、成果を最大化していくかは、越境EC成功の鍵を握ります。この段階は、特に越境ECが初めての中小企業経営者様にとって、「何を見れば良いのか」「どう改善すれば良いのか」が分かりづらい部分かもしれません。
本記事では、越境ECサイトを公開した後に経営者として把握しておくべき運用・改善の基本的な考え方と、具体的なステップについて解説します。
越境ECにおける運用・改善の重要性
越境ECは、国内ECとは異なる市場環境、文化、競合状況の中で行われます。サイトを公開しただけで、すぐに大きな成果が出ることは稀です。公開後の運用と改善が重要な理由は以下の通りです。
- 変化への対応: 海外市場のトレンド、顧客のニーズ、競合の動きは常に変化しています。これらに対応し、常に最適な状態でサイトを維持する必要があります。
- 効果の測定と評価: どのような施策(プロモーション、サイト修正など)がどれだけ効果があったのかを測定し、費用対効果を評価することで、限られた経営資源を効率的に活用できます。
- 課題の発見と解決: アクセス数はあるが売上につながらない、特定のページで顧客が離脱しているなど、データに基づいた課題発見と解決策の実行が売上向上につながります。
- 顧客満足度の向上: サイトの使いやすさや情報提供の改善は、海外顧客の満足度を高め、リピート購入や口コミにつながります。
運用・改善は一度行えば終わりではなく、継続的に行う「サイクル」であると理解することが重要です。
運用・改善の基本ステップ
越境ECサイト公開後の運用・改善は、一般的に以下のステップを繰り返すことで進めます。
ステップ1:現状把握(データを見る)
最初にやるべきことは、現在の状況を正確に把握することです。そのためには、サイトにアクセスした海外顧客の行動データを分析します。見るべき基本的なデータ指標には、以下のようなものがあります。
- アクセス数(セッション数/ユーザー数): どのくらい多くの人がサイトを訪れているか。
- ページビュー数(PV数): サイト全体でどのページがどれだけ見られているか。
- 平均セッション時間: 訪問者はサイトに平均でどのくらい滞在しているか。
- 直帰率: サイトに訪問したものの、最初の1ページだけ見てすぐに離れてしまった人の割合。
- コンバージョン率(CVR): サイト訪問者のうち、購入や問い合わせなどの目標達成に至った人の割合。
- 売上: 目標期間内での総売上。
- 購入経路: どのような経路で顧客が購入に至ったか。
これらのデータは、Google Analyticsのような無料のアクセス解析ツールを利用することで確認できます。ツールに表示される専門用語が最初は難しく感じるかもしれませんが、「訪問者数」「どこから来たか」「どのページを見たか」「どこで離れてしまったか」「最終的に購入したか」といった基本的な項目から確認を始めてみてください。
ステップ2:課題の特定
データを見たら、そのデータから「何が課題か」を読み取ります。例えば:
- アクセス数が少ない: まだ海外顧客にサイトの存在を知られていない可能性がある。
- 直帰率が高い: サイトの最初のページ(トップページなど)に問題があるかもしれない(情報が少ない、読み込みが遅い、デザインが魅力的でないなど)。
- 特定の商品のページからの離脱が多い: その商品の情報が不足している、価格が高い、商品説明が分かりにくいなどの可能性がある。
- カートに商品は入るが購入完了に至らない(カゴ落ちが多い): 決済方法が限られている、送料が高い、購入手続きが複雑、入力フォームが使いにくいなどの可能性がある。
- 特定の国からのアクセスは多いが売上が少ない: その国の顧客のニーズに合っていない、ローカライズが不十分、競合が多いなどの可能性がある。
データは「結果」を示しています。その結果から、「なぜそうなったのか」を推測し、改善すべき課題を特定します。
ステップ3:改善策の立案
特定された課題に対して、具体的な改善策を考えます。中小企業のリソースを考慮し、優先順位をつけ、実現可能な範囲で対策を立案することが重要です。
- アクセス数増加の課題: 海外向けのオンライン広告(Google Ads, SNS広告など)、海外のインフルエンサーとの連携、SEO(検索エンジン最適化)対策(海外向けキーワードでの対策)など。
- 直帰率が高い/離脱率が高い課題: サイトデザインの見直し、コンテンツの追加(商品詳細、使い方、FAQなど)、ページの読み込み速度改善、分かりやすいナビゲーションの設置。
- カゴ落ちが多い課題: 決済方法の追加(その国の主流な決済方法)、送料の見直し、購入手続きの簡素化、多言語でのサポート体制強化。
- 特定の国での売上課題: その国の市場調査の深化、商品のローカライズ(デザイン、機能)、価格戦略の見直し、現地のプロモーション。
いきなり大きなシステム改修を考える必要はありません。まずは、サイトのテキスト修正、画像の追加、FAQページの作成など、比較的容易に着手できることから試すのも良いでしょう。
ステップ4:改善策の実施
立案した改善策を実行します。サイトの修正であれば、ECサイトの管理画面から行う場合が多いです。プロモーション施策であれば、広告運用会社に依頼したり、SNSアカウントを運用したりします。
この際、一度に多数の変更を加えるのではなく、一つまたはいくつかの施策に絞って実施することをお勧めします。そうすることで、後でその施策の効果を正確に測定しやすくなります。
ステップ5:効果測定と再評価
改善策を実施したら、再びデータを観察し、その施策がどのような影響を与えたかを測定します。「アクセス数が増えたか?」「直帰率が下がったか?」「コンバージョン率は向上したか?」などを確認します。
もし効果が見られなかった場合は、その施策は失敗だったと判断し、別の方法を考えます。効果が見られた場合は、さらにその施策を強化したり、成功要因を他の部分に応用できないかを検討します。
この「データを見る」→「課題を見つける」→「改善策を考える」→「実行する」→「効果を測る」というサイクル(PDCAサイクルと呼ばれる考え方)を継続的に回していくことが、越境ECサイトを成長させる上で非常に重要です。
中小企業が運用・改善に取り組む上でのポイント
- 全てを完璧にやろうとしない: 最初から全てのデータを分析したり、全ての課題を解決しようとしたりすると、リソースが足りなくなります。まずは最も重要と思われる指標(例:コンバージョン率)に焦点を当て、影響の大きい課題から優先的に取り組みましょう。
- 外部リソースの活用検討: データ分析ツールによっては、専門的な知識が必要な場合があります。また、サイト改善や海外プロモーションには専門ノウハウが求められます。必要に応じて、越境EC支援企業やコンサルタント、フリーランスなどに相談することも有効です。ただし、費用対効果は慎重に検討してください。
- ローカライズの継続的な見直し: 最初に行ったローカライズが常に最適とは限りません。現地の顧客からのフィードバックや、競合サイトの状況などを参考に、商品説明の表現、通貨表示、単位、デザインなどを定期的に見直すことが重要です。
- 顧客からのフィードバックを重視する: 海外顧客からの問い合わせ、レビュー、SNSでのコメントなどは、生の声として非常に貴重な情報源です。「サイトが使いにくい」「情報が分かりづらい」といった声がないか、注意深く耳を傾けましょう。
まとめ
越境ECサイトの公開は、海外展開のスタートラインです。その後、データを活用した継続的な運用と改善を行うことが、越境ECの成功確率を高めるために不可欠となります。
まずは、Google Analyticsのようなツールで基本的なデータを見ることから始め、サイトの現状を把握してください。次に、そのデータから課題を見つけ、無理のない範囲で改善策を実行し、その効果を確認するサイクルを回していくことが重要です。
運用・改善は地道な作業ですが、海外顧客のニーズに寄り添い、サイトを育てていく過程そのものです。このプロセスを通じて、貴社の越境ECは必ず成長していくはずです。