初めての越境EC:成功に必要な「人」の準備:社内体制と外部パートナーの選び方【中小企業向け】
越境ECを始める中小企業が直面する「ヒト」の課題
越境ECに挑戦しようとお考えの経営者の方々にとって、「何から始めれば良いか分からない」という不安は大きいかもしれません。その中でも特に、「誰が何をやるのか」「必要な人材はいるのか」といった「ヒト」に関する課題は、多くの中小企業が直面する壁の一つです。
海外展開に関心はあるものの、社内に海外ビジネスの経験者がいなかったり、特定のスキルを持った人材がいなかったりすると、どこから手を付けて良いのか迷ってしまいます。この課題を解決するためには、越境ECで必要となる業務を洗い出し、それを自社のリソースで賄うのか、それとも外部の専門家に委託するのかを慎重に判断する必要があります。
この記事では、越境ECの成功に必要な「ヒト」の準備について、具体的な業務内容、中小企業における社内体制の考え方、そして外部パートナーの賢い活用方法と選び方について解説します。これにより、貴社にとって最適なチーム体制を構築し、越境ECへの第一歩を踏み出すための具体的なヒントを得られることを目指します。
越境ECで必要となる主なスキルと業務内容
越境ECを運営するためには、国内向けECとは異なる、あるいはより高度な専門知識やスキルが求められる業務が多岐にわたります。主な業務内容と、それぞれに必要なスキルを以下にまとめました。
- 商品選定・企画:
- 業務: 海外市場のトレンドリサーチ、競合調査、海外で販売する商品の選定、商品ページの企画・立案。
- スキル: 市場分析力、商品企画力、語学力(情報収集のため)。
- サイト構築・デザイン:
- 業務: 越境ECサイトのプラットフォーム選定、デザイン、機能実装、保守管理。
- スキル: ECサイト構築に関する知識(プラットフォームの理解)、基本的なウェブデザインスキル、技術的な問題解決能力。
- ローカライズ:
- 業務: ウェブサイト、商品情報、広告クリエイティブなどの翻訳、対象国の文化や慣習に合わせた表現・デザインの調整、通貨・単位の変更。
- スキル: 高度な語学力、対象国の文化・商習慣への理解、マーケティング視点での文章作成能力。
- マーケティング・集客:
- 業務: 海外向けの広告運用(Google Ads, Facebook Adsなど)、SNSマーケティング、検索エンジン最適化(SEO)、コンテンツマーケティング、インフルエンサー活用。
- スキル: デジタルマーケティング知識、広告運用スキル、データ分析スキル、語学力(広告文作成、SNS運用など)、ターゲット顧客への理解。
- 物流・在庫管理:
- 業務: 海外への商品発送手配(国際配送業者選定、契約)、在庫管理、倉庫手配(必要に応じて)、輸出関連書類作成。
- スキル: 国際物流に関する知識、在庫管理システムの使用経験、正確な事務処理能力。
- 顧客対応・サポート:
- 業務: 海外顧客からの問い合わせ対応(メール、チャット)、返品・返金対応、クレーム処理、FAQ作成。
- スキル: 高いコミュニケーション能力、語学力、問題解決能力、海外顧客の文化背景への理解。
- 法務・税務・関税対応:
- 業務: 対象国のEC関連法規制の確認、プライバシーポリシー・利用規約の整備、輸出入に関する税金・関税の知識、コンプライアンス対応。
- スキル: 国際取引に関する基本的な法務・税務知識、専門家との連携能力。
- データ分析・効果測定:
- 業務: アクセス解析、広告効果測定、売上データ分析、改善点の特定。
- スキル: データ分析ツール(Google Analyticsなど)の使用経験、分析結果から示唆を得る能力、経営判断への活用力。
これら全ての業務を最初から自社内の限られた人員で行うことは、多くの中小企業にとって現実的ではありません。
中小企業における「社内体制」の考え方
中小企業が越境ECに取り組む際の社内体制は、大企業のような専任部署を設置する形とは異なる場合がほとんどです。現実的な体制構築のポイントを以下に示します。
- 経営層の関与: 越境ECは単なる販売チャネルの追加ではなく、事業戦略そのものです。経営者自身が越境ECの目的やターゲット市場、全体像を理解し、積極的に意思決定に関わることが不可欠です。特に初期段階では、限られたリソースをどこに集中させるかなど、重要な判断が求められます。
- 既存メンバーの兼任・スキルアップ: 新たに越境EC担当者をすぐに採用することが難しい場合、まずは既存のメンバーに兼任で業務を担ってもらうことを検討します。その際、越境ECに関する基本的な知識や必要なスキルを習得するための学習機会(外部セミナー参加、オンライン学習、書籍など)を提供することが重要です。
- 「越境EC担当者」の役割: たとえ専任ではなくとも、社内に「越境ECの全体像を把握し、外部パートナーとの連携や進捗管理を行う中心人物」を置くことは非常に有効です。この人物が各業務の進捗を確認し、課題を特定し、必要な判断を仰ぐことで、プロジェクトの推進力が生まれます。この担当者が全ての業務をこなす必要はありませんが、各業務の目的や流れを理解していることが望ましいです。
- スモールスタートからの拡大: 最初から完璧な体制を目指すのではなく、まずは必要最低限の体制でスモールスタートし、運用しながら徐々に体制を強化していく考え方が現実的です。例えば、最初は一部の商品・地域に絞り、必要な業務も最小限に留めることから始めます。
「外部パートナー」活用のメリット・デメリット
越境ECに取り組む上で、自社内のリソースだけでは限界がある場合に頼りになるのが外部の専門家や企業です。外部パートナーを活用することには、以下のメリットとデメリットがあります。
メリット:
- 専門知識・ノウハウの活用: 自社にない専門的なスキルや、特定の市場・業務に関する豊富な経験を持つ専門家の知見をすぐに活用できます。これにより、試行錯誤の時間を短縮し、より効率的に事業を進められます。
- 時間・リソースの節約: 社内リソースを割くことなく、特定の業務を迅速に進めることができます。これにより、コア業務に集中したり、限られた人員をより重要な業務に配置したりすることが可能になります。
- リスク分散: 特に法務、税務、物流など、専門知識が不足している分野では、外部の専門家に委託することで、予期せぬトラブルや法令違反のリスクを低減できます。
- 初期投資の抑制: 高度なスキルを持つ人材を自社で採用する場合に比べて、特定の業務をアウトソースする方が初期費用を抑えられる場合があります(ただし、長期的なコストは検討が必要です)。
デメリット:
- コストの発生: 外部パートナーへの委託には当然費用が発生します。予算計画に含め、費用対効果を考慮する必要があります。
- 自社内にノウハウが蓄積しにくい: 外部に任せきりにすると、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかといった貴重なノウハウが自社内に蓄積されにくくなります。将来的な内製化や事業拡大を見据える場合、この点は課題となります。
- コミュニケーションコスト: 外部パートナーとの間で、業務内容、期待値、進捗状況などについて密にコミュニケーションを取る必要があります。意思疎通がうまくいかないと、プロジェクトの遅延や質の低下を招く可能性があります。
- パートナー選定の難しさ: 数多くの外部パートナーの中から、自社の目的やニーズに合った、信頼できる相手を選ぶことは容易ではありません。
どのような業務を外部に委託すべきか?判断基準
外部パートナーの活用は有効ですが、全ての業務を委託すれば良いわけではありません。自社の状況に合わせて、どの業務を外部に任せるかを判断することが重要です。以下の基準で検討することをおすすめします。
- 専門性が高く、社内にノウハウがない業務:
- 例: 高度なデジタル広告運用、複雑な国際法務・税務相談、対象国の文化に合わせた高度なローカライズ(コピーライティング含む)、専門的な市場調査・分析。
- これらの分野は、専門知識や最新の情報、経験が結果に大きく影響するため、自社に該当する人材がいない場合は外部委託が有効です。
- 定型的だが大量のリソースが必要な業務:
- 例: 大量の文書や商品情報の翻訳、商品のピッキング・梱包・発送といった物流業務の一部、一次問い合わせ対応。
- これらの業務は、専門性は比較的高くなくても、膨大な時間や人員が必要になる場合があります。外部に委託することで、社内リソースをより戦略的な業務に集中させることができます。
- 初期段階でリスクを抑えたい業務:
- 例: 初めての海外広告出稿、初めての国際配送業者との契約、特定の市場でのテスト販売。
- 経験豊富な外部パートナーに依頼することで、失敗のリスクを減らし、安全に越境ECの運用を開始できます。
- 判断基準:
- 業務の専門性・難易度: その業務を遂行するためにどれほどの専門知識や経験が必要か。
- 自社リソース: その業務に充てられる社内の人員、スキル、時間はあるか。
- コストパフォーマンス: 外部委託にかかる費用と、自社で実施した場合の時間・人員コスト、得られる成果を比較検討する。
- 将来的な内製化: 将来的にその業務を自社で行いたいか。ノウハウを蓄積したい業務は、最初は外部に依頼しつつも、積極的に情報共有を受けたり、担当者が学んだりする姿勢が重要です。
外部パートナーの選び方と付き合い方
外部パートナーを選定し、良好な関係を築くことも、越境EC成功の重要な要素です。
選び方:
- 実績と信頼性: 過去に越境EC、特に貴社の商品カテゴリやターゲット国での支援実績があるかを確認します。導入事例や顧客からの評判なども参考にすると良いでしょう。契約前に複数の候補から見積もりや提案を受け、比較検討することをおすすめします。
- コミュニケーションのスムーズさ: 担当者との連絡の取りやすさ、質問への回答の迅速さ、懸念点に対する丁寧な対応などを確認します。文化や言語の壁を越えて、円滑なコミュニケーションが取れるかは非常に重要です。
- 料金体系の明確さ: どのような業務に対して、どのような基準で費用が発生するのかが明確になっているかを確認します。後から予期せぬ費用が発生しないよう、契約内容を細部まで確認することが大切です。
- 契約内容の確認: 業務範囲、納期、成果物の定義、責任範囲、秘密保持契約(NDA)など、契約書の内容を十分に理解し、不明点があれば必ず確認します。必要であれば、弁護士などの専門家に相談することも検討します。
付き合い方:
- 明確な目標設定と情報共有: 外部パートナーに「何を達成してほしいのか」を具体的に伝え、目標を共有します。また、自社のビジネスや商品の特性について十分に情報を提供し、パートナーが最適な提案や業務遂行ができるように協力します。
- 定期的な進捗確認とフィードバック: 定期的に会議やレポートなどを通じて、業務の進捗状況を確認します。課題があれば早期に共有し、改善のためのフィードバックを行います。パートナーからの報告を待つだけでなく、積極的に状況を把握しようとする姿勢が重要です。
- パートナー任せにしない: 外部パートナーはあくまで「伴走者」であり、事業の主体は貴社です。全ての判断を丸投げするのではなく、提案内容を理解し、自社の経営戦略に照らして適切か判断することが求められます。パートナーと共に学び、ノウハウを吸収していく意識を持つことが、将来的な自社の力となります。
結論:自社の状況に合わせた「人」の準備が成功の鍵
越境ECは、国内ECに比べて必要な専門知識や業務範囲が広くなります。中小企業がこの挑戦を成功させるためには、最初から全ての業務を自社の人員だけで賄おうとするのではなく、自社の強みと弱みを理解し、必要な業務を洗い出した上で、最も効率的でリスクの少ない「人」の体制を構築することが不可欠です。
まずは経営者自身が越境ECの全体像を把握し、社内の核となる担当者を決めます。そして、専門性が高い業務やリソースを大量に必要とする業務については、信頼できる外部パートナーの活用を積極的に検討します。
外部パートナーは単なる下請け業者ではなく、貴社の越境EC事業を成功に導くための重要な協力者です。適切なパートナーを選び、密に連携を取りながら事業を進めることで、貴社は限られたリソースの中で最大の効果を発揮し、越境ECでの成功を実現できる可能性が高まります。
この記事が、貴社が越境ECへの第一歩を踏み出す際の「人」に関する課題解決の一助となれば幸いです。