【中小企業向け】越境EC:海外顧客のニーズ・嗜好をどう調べる?具体的な方法と活用法
越境ECに挑戦するにあたり、「日本の素晴らしい商品を海外に届けたい」という強い想いをお持ちのことと存じます。しかし、残念ながら、日本国内で評価されている商品やサービスが、そのまま海外の顧客にも受け入れられるとは限りません。海外には、独自の文化、習慣、価値観があり、それらが消費者のニーズや嗜好に深く影響を与えているからです。
越境ECを成功させるためには、現地の顧客が「何を求めているのか」「何に価値を感じるのか」「どのように商品を選ぶのか」といった、ニーズや嗜好を正確に把握することが非常に重要になります。この理解なしに進めてしまうと、期待した成果が得られず、無駄なコストや時間を費やすリスクが高まります。
本稿では、中小企業の経営者の皆様が、海外顧客のニーズや嗜好を把握するために、どのような視点を持ち、具体的にどのような方法で調査を進めれば良いのか、そしてその情報をどのように越境EC戦略に活かすべきなのかについて、分かりやすく解説いたします。
なぜ海外顧客のニーズ・嗜好調査が重要なのか?
越境ECにおけるニーズ・嗜好調査は、単なる情報収集ではありません。これは、貴社の商品・サービスを海外市場に「フィット」させるための基盤となる作業です。この調査を行うことによって、以下のようなメリットが得られます。
- 売れる商品・サービスの特定: 現地で本当に求められている商品や、既存商品のどのような点が評価される可能性があるかを特定できます。
- 効果的なローカライズの方向性: ウェブサイトのデザイン、商品情報、マーケティングメッセージなどを、現地の文化や言語に合わせて最適化(ローカライズ)するための具体的なヒントが得られます。
- 適切な価格設定: 現地市場の購買力や競合の価格設定を踏まえ、利益を確保しつつ顧客に受け入れられる価格を設定する際の重要な情報となります。
- 効率的な集客・販売戦略: 顧客がよく利用するオンラインチャネル(SNS、特定のECサイトなど)や、どのような情報に影響を受けるかを知ることで、無駄のない広告宣伝や販売促進が可能になります。
- リスクの低減: 市場のニーズとかけ離れた商品や戦略に投資するリスクを減らし、より確度の高い越境EC事業運営に繋がります。
逆に、この調査を怠ると、「自社が良いと思うものを売る」という一方的な視点になりがちです。結果として、サイトに誰も訪れない、商品が売れない、といった事態に陥りやすくなります。
海外顧客のニーズ・嗜好を把握するための基本的な視点
海外顧客のニーズ・嗜好を調べる際には、いくつかの基本的な視点を持つことが役立ちます。これらは、マーケティング分野で「セグメンテーション」に用いられる考え方とも共通しています。
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デモグラフィック情報 (Demographics): 顧客の基本的な属性に関する情報です。
- 例:年齢、性別、居住地域、所得、職業、学歴、家族構成など。
- これにより、ターゲットとなる顧客層の大まかな輪郭を掴むことができます。
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ジオグラフィック情報 (Geographics): 顧客の地理的な情報です。
- 例:国、都市、気候、文化圏など。
- 地域によって気候に適した商品が異なったり、特定の地域特有の文化や習慣が存在したりします。
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サイコグラフィック情報 (Psychographics): 顧客の内面やライフスタイルに関する情報です。
- 例:価値観、興味・関心、ライフスタイル、パーソナリティ、購買動機など。
- 「なぜその商品を買うのか」「何を重視して商品を選ぶのか」といった、より深い動機や好みを理解するのに役立ちます。
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行動情報 (Behavioral): 顧客の具体的な行動に関する情報です。
- 例:購買頻度、購入経路(どこで買うか)、利用シーン、ウェブサイトでの行動履歴、情報収集の方法など。
- どのように商品を探し、購入に至るのか、実際の行動パターンを知ることができます。
これらの視点を組み合わせることで、「特定の国の〇〇歳代の女性で、環境問題に関心があり、SNSで情報を集めることが多い人たちは、△△という種類の商品を、〇〇という理由で購入する傾向がある」といったように、より具体的な顧客像(ペルソナ)を描くことが可能になります。
中小企業ができる!具体的な調査方法
予算やリソースが限られる中小企業でも、実践できるニーズ・嗜好の調査方法は複数存在します。まずは、比較的容易に取り組める方法から始めてみましょう。
1. オンラインでの情報収集(自分でできる第一歩)
インターネット上には、海外市場や顧客に関する情報が豊富に存在します。まずは、これらの公開情報を活用することから始めます。
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検索エンジンを活用する:
- ターゲット国のGoogleなどの検索エンジンで、自社の商品カテゴリに関連するキーワードを検索します。現地の言葉で検索することが重要です。
- 「人気商品」「トレンド」「おすすめ [商品カテゴリ] [国名]」といったキーワードで検索し、現地でどのような商品が注目されているかを調べます。
- 関連するブログ記事やメディアの記事も参考になります。
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SNSを調べる:
- Facebook, Instagram, Twitter (X) など、ターゲット国でよく利用されているSNSで、自社の商品カテゴリに関連するハッシュタグやキーワードを検索します。
- どのような商品が話題になっているか、顧客はどのような投稿をしているか、どのようなインフルエンサー(影響力のある個人)がいるかなどを観察します。現地の言葉での投稿を見ることが重要です。
- ターゲット顧客と思われる人々の投稿や、彼らがフォローしているアカウントから、興味やライフスタイルを推測できます。
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現地のECサイトやレビューサイトを見る:
- Amazon [ターゲット国].com、eBay [ターゲット国] など、現地の主要なECサイトを閲覧し、自社の商品カテゴリの人気ランキングや売れ筋商品を調べます。
- 特に重要なのが、顧客レビューです。商品の「良い点」と「悪い点」、顧客がどのような点を評価し、何に不満を感じているのかを知ることができます。これは、自社商品の改善や、海外市場での訴求ポイントを見つける上で非常に貴重な情報源です。
- Trustpilotのような世界的なレビューサイトも参考になります。
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現地のメディアやフォーラムをチェックする:
- ターゲット国のニュースサイト、専門メディア、オンラインフォーラム(特定の話題について人々が議論する場)なども、現地のトレンドや消費者の関心事を知る手がかりとなります。
2. 既存の市場データ・レポートを活用する
公的機関や調査会社が公開している既存の市場データやレポートは、信頼性の高い情報源となります。
- JETRO(日本貿易振興機構): JETROのウェブサイトでは、各国の市場情報、消費トレンド、貿易関連情報などが提供されています。無料で利用できる情報も多いです。
- 各種調査会社: 有料の市場調査レポートも存在しますが、非常に高価な場合が多いです。まずは、ウェブサイトなどで公開されているサマリーやプレスリリース、無料のレポートなどを活用してみましょう。業界団体やシンクタンクのレポートも参考になります。
- ターゲット国の政府機関や統計局: 公的な統計データは、人口動態や経済状況、消費支出の傾向などを把握するのに役立ちます。
3. 簡易的な直接調査(可能であれば試したい)
予算やリソースに余裕があれば、顧客に直接意見を聞く調査も検討できます。
- オンラインアンケート: メールリストやSNSを通じて、ターゲット顧客候補に簡易的なアンケートを実施します。ただし、回答率や回答の質には注意が必要です。調査設計に工夫が必要です。
- SNSでの意見募集: 自社のSNSアカウントがある場合、フォロワーに対して商品に関する意見や好みを尋ねる投稿をしてみることも有効です。
4. 競合他社の分析
ターゲット市場で既に成功している競合他社を分析することは、非常に効果的な方法です。
- 競合他社のウェブサイト、商品ラインナップ、価格設定、プロモーション方法、顧客レビューなどを詳細に調べます。
- なぜその競合は成功しているのか?どのような顧客層をターゲットにしているのか?彼らの商品やサービスにはどのような強みがあるのか?といった視点で分析します。競合の「欠点」や「顧客の不満」を見つけることは、自社の差別化のヒントになります。
収集した情報の分析と活用
さまざまな方法で情報を集めたら、次に重要なのはその情報を分析し、越境EC戦略に活かすことです。
- 情報の整理と分類: 収集した情報を、先に挙げたデモグラフィック、ジオグラフィック、サイコグラフィック、行動情報といった視点や、商品への要望、サービスへの要望、価格に関する意見、デザインに関する意見などのカテゴリに分けて整理します。
- 傾向の特定: 整理した情報の中から、多くの顧客に共通する意見や、特定の層に強く見られる傾向などを特定します。
- 顧客像(ペルソナ)の具体化: 複数の情報源から得られた知見を組み合わせ、ターゲット顧客の具体的な人物像(ペルソナ)を描きます。ペルソナには、名前、年齢、職業といった基本情報に加え、その人のライフスタイル、価値観、越境ECで商品を購入する際の悩みや動機なども含めると、より深く顧客を理解できます。
- 戦略への反映:
- 商品開発・改善: 顧客の要望や不満を踏まえ、既存商品の仕様変更や新商品開発のヒントとします。
- ローカライズ: ウェブサイトのコンテンツ、商品情報の表現、画像などを、現地の文化や価値観に合わせて調整します。例えば、縁起が良いとされる色や数字、避けるべき表現などがあります。
- マーケティング・プロモーション: 顧客がよく利用するSNSチャネルを選んだり、彼らに響くメッセージを考えたりします。
- サービス: 顧客が重視するサポート体制(メール対応、チャットなど)や、返品・交換に対する考え方などを踏まえ、サービス内容を検討します。
中小企業が無理なく進めるためのポイント
越境ECのニーズ・嗜好調査は、網羅的にやろうとすると非常に大変です。中小企業のリソースを考慮すると、以下の点を意識して進めることをお勧めします。
- 最初から完璧を目指さない: まずは、インターネット検索やSNS、レビューサイトの確認など、自分たちで無理なくできる範囲から着手しましょう。
- ターゲット市場を絞る: いきなり世界中を対象にするのではなく、可能性の高そうな特定の国や地域に絞って調査を行う方が効率的です。
- 既存顧客にヒントを得る: もし既に海外からの問い合わせや注文が稀にある場合は、その顧客の属性やニーズを深掘りしてみるのも良いでしょう。
- 外部の知見を活用する: 越境EC支援のコンサルタントや、ターゲット国に詳しい専門家などに相談することも有効です。費用はかかりますが、効率的に質の高い情報を得られる可能性があります。
- 調査は継続的に行う: 市場や顧客のニーズは常に変化します。一度調査したら終わりではなく、定期的に情報収集と分析を行うことが重要です。
まとめ
越境ECにおける海外顧客のニーズ・嗜好調査は、成功に向けた非常に重要なステップです。これは、闇雲に進めるのではなく、しっかりと足元を固めるための投資と考えるべきです。
多岐にわたる情報収集に圧倒される必要はありません。まずは、インターネットで公開されている情報の中から、自社の商品やターゲット市場に関連するものを集めることから始めてみてください。現地のECサイトのレビューやSNSでの一般の消費者の生の声は、非常に貴重な宝庫です。
収集した情報を分析し、ターゲット顧客の姿をより鮮明に描くことで、貴社の越境EC事業は、より現実的で、より成功の可能性の高いものへと変わっていくはずです。リスクを最小限に抑え、海外での事業を軌道に乗せるために、ぜひこのニーズ・嗜好調査に丁寧に取り組んでいただきたく存じます。
ご不明な点や、さらに具体的な調査方法について知りたい場合は、専門家への相談も検討されてはいかがでしょうか。貴社の越境EC事業の成功を心より応援しております。