中小企業向け越境EC:海外で売れる「商品」の探し方・選び方
越境EC成功の鍵は「売れる商品」を見つけること
越境ECへの挑戦をご検討されている中小企業の経営者の皆様、はじめまして。当サイトは、初めて越境ECに挑戦する中小企業の皆様を対象に、越境ECの基本とステップを分かりやすく解説しています。
越境ECを始めるにあたり、「何から手をつければ良いか分からない」というお悩みをお持ちの方もいらっしゃるかと存じます。多くの経営者が最初に直面する重要な課題の一つが、「どの商品を海外で販売するか」という商品選定です。
日本の国内市場で成功している商品だからといって、必ずしも海外でも成功するとは限りません。文化や習慣の違い、現地のニーズ、競合状況、法規制など、考慮すべき点は多岐にわたります。この商品選定を誤ると、その後のマーケティングやローカライズにどれだけ注力しても、期待する成果が得られない可能性があります。
この記事では、中小企業の経営者の皆様が、自社の商品・サービスの中から海外で「売れる」可能性のあるものを見つけ、適切に選定するための考え方と具体的なステップについて解説します。越境ECの成功に向けた重要な第一歩を、この記事を通じて踏み出していただければ幸いです。
越境ECにおける商品選定の重要性
なぜ越境ECにおいて商品選定がこれほど重要なのでしょうか。それは、商品が越境ECビジネスの根幹をなすからです。
- 海外市場のニーズとのミスマッチを防ぐ: 日本国内で当たり前に受け入れられている商品でも、海外では全く関心を持たれない、あるいは既に類似品が安価で流通しているといったケースがあります。現地のニーズや文化を理解せずに商品を選定すると、販売機会を逃すだけでなく、在庫リスクやマーケティング費用の無駄につながります。
- 収益性を確保する: 国際送料、関税、為替変動、決済手数料など、越境ECには国内ECとは異なるコストが発生します。これらのコストを考慮しても十分な利益を確保できる商品を選ぶ必要があります。単価が低い商品や、輸送が難しい商品は、収益化が困難になる場合があります。
- ローカライズの難易度とコスト: 商品によっては、現地の言語への翻訳だけでなく、仕様変更やパッケージデザインの変更、現地基準への適合(法規制、認証など)が必要になる場合があります。これらのローカライズにかかる労力や費用は、商品によって大きく異なります。ローカライズが過度に困難、あるいは高コストになる商品は、現実的ではない場合があります。
- 競争優位性を確立する: 海外市場には既に多くの競合が存在します。その中で自社の商品を選んでもらうためには、競合商品にはない強みや魅力が必要です。自社の強みを活かせる商品、現地の競合が手薄な分野の商品を見つけることが重要です。
このように、適切な商品選定は、その後の物流、マーケティング、ローカライズ、顧客サポートといったあらゆる業務に影響を与え、越境EC事業全体の成否を左右する要因となります。
海外で「売れる」商品を見つけるための基本的な考え方
では、どのような視点で商品を評価し、海外で売れる商品を見つけ出せば良いのでしょうか。基本的な考え方は以下の通りです。
- 自社の強み・ユニークさを活かせるか: 日本製品に対する海外からの評価として、「高品質」「安心・安全」「デザイン性」「丁寧な作り」などが挙げられます。自社の商品が持つ、これらの「日本の強み」や、他社にはない独自の技術、ストーリーといったユニークな点を活かせるか検討します。既存の国内ヒット商品に、海外で評価されうる要素が含まれているか見直してみましょう。
- ターゲット市場のニーズや文化に合致するか: 選定したターゲット市場(例:北米、ヨーロッパ、アジアなど特定の国や地域)において、どのようなニーズがあるか、自社の商品がそのニーズを満たせるか検討します。現地の文化、習慣、ライフスタイルに受け入れられる商品か、あるいは適度なローカライズで対応できるかといった視点も重要です。例えば、高温多湿な地域では特定の化粧品が需要が高い、特定の食品が宗教上の理由で受け入れられない、といった文化的な側面も考慮が必要です。
- 現地の競合状況はどうか: ターゲット市場において、自社の商品と類似する商品がどの程度流通しているか、価格帯はどうか、どのような企業が販売しているかなどを調査します。競合が多い市場では、価格競争に巻き込まれたり、埋もれてしまったりするリスクが高まります。ニッチな市場や、まだ競合が少ない市場に参入できれば、優位性を築きやすくなります。
- 法規制、輸出入の制約、関税はどうか: 商品によっては、輸出先の国が定める法規制(安全基準、成分規制、表示義務など)を満たす必要があります。また、特定の商品の輸出入が制限されていたり、高い関税がかかったりする場合もあります。これらの制約は、商品の価格設定や販売可否に直接影響するため、早期に確認が必要です。医薬品、食品、化粧品、電気製品などは特に注意が必要です。
- ローカライズの必要性(商品自体、パッケージ、説明書など): 前述の通り、商品自体やパッケージ、取扱説明書などのローカライズが必要か、その難易度とコストはどうかを検討します。現地の言語への翻訳はもちろん、デザインの変更、電圧やプラグ仕様の変更、アレルギー表示の追加など、様々なローカライズが発生する可能性があります。ローカライズが不要、あるいは比較的容易な商品であれば、初期の負担を軽減できます。
これらの視点を総合的に評価することで、海外で「売れる」可能性を秘めた商品候補を絞り込むことができます。
具体的な商品選定のステップ
基本的な考え方に基づき、具体的な商品選定を以下のステップで進めていきます。
ステップ1:自社商品の棚卸しと候補選定
まず、現在取り扱っている全ての商品・サービスをリストアップし、海外での販売可能性を初期的に評価します。
- 評価項目例:
- 日本独自の要素が強いか?(海外で希少性があるか)
- 品質や技術力に自信があるか?
- 小型軽量で輸送しやすいか?(物流コストを抑えられるか)
- 賞味期限や有効期限が長いか?(在庫管理リスクを減らせるか)
- 過去に外国人観光客に人気があったか?
- 海外からの問い合わせを受けたことがあるか?
- 製造や仕入れに安定性があるか?(大量注文に対応できるか)
- ローカライズの必要性は少ないか?
これらの項目を参考に、現時点で海外展開に適していると思われる商品を複数候補として選びます。
ステップ2:ターゲット市場の調査(ニーズ、トレンド、競合、規制)
次に、候補商品の販売が有望と思われるターゲット市場を特定し、その市場について詳細な調査を行います。ターゲット市場の選定については、別途詳細な記事を公開する予定ですが、ここでは商品選定の視点から必要な調査項目を挙げます。
- 調査項目例:
- ニーズ・トレンド: インターネット検索(Googleトレンドなど)、現地のECサイト(Amazon、eBay、Shopeeなど)のランキングやレビュー、SNSでの話題、市場調査レポートなどを活用し、候補商品に関連する現地ニーズや流行を把握します。
- 競合状況: 現地のECサイトやリアル店舗で、類似商品がどの程度、どのような価格で販売されているか調査します。競合商品の強み・弱み、マーケティング方法なども参考にします。
- 法規制・認証: 候補商品の輸出入に関する規制、安全基準、必須の認証、表示義務などを調査します。JETRO(日本貿易振興機構)や大使館、現地の規制情報を扱う専門機関などに相談することも有効です。
- 関税・税金: 候補商品にかかる関税率や現地の消費税などを確認します。これにより、販売価格を設定する上での重要な情報が得られます。
これらの調査を通じて、候補商品がターゲット市場で受け入れられる可能性、競争環境、クリアすべき課題などを具体的に把握します。
ステップ3:候補商品の評価・絞り込み
ステップ1で選んだ候補商品と、ステップ2で調査した市場情報を突き合わせ、どの商品を優先的に越境ECで扱うかを評価・絞り込みます。
- 評価基準例:
- 市場のニーズとの合致度
- 競合に対する優位性(価格、品質、機能、デザインなど)
- 収益性(販売価格設定、コスト構造)
- 法規制や認証クリアの見込み
- ローカライズの難易度と費用
- 物流・保管の適性
- 初期投資や運用にかかるリソース(費用、人員、時間)
これらの基準に基づき、最も成功の見込みが高く、かつ自社のリソースで対応可能な商品を最終候補として絞り込みます。リスクを最小限に抑えたい場合は、まずは1つまたは少数の商品からスモールスタートすることも検討します。
ステップ4:テスト販売・市場投入計画
絞り込んだ商品について、本格的な市場投入の前に、限定的なテスト販売を行うことも有効です。
- テスト販売の方法例:
- 越境ECモール(Amazon、eBayなど)での小ロット販売
- 自社ECサイトでの特定の国・地域向け限定販売
- 海外のクラウドファンディングサイトでの展開
- 海外の展示会・イベントへの出展
テスト販売を通じて、実際の顧客からの反応、物流の課題、ローカライズの効果などを検証し、本格展開の可否や改善点を見極めます。テスト販売の結果を踏まえ、本格的な市場投入計画(販売チャネル、マーケティング戦略、在庫計画、人員配置など)を策定します。
商品選定で失敗しないための注意点
越境ECの商品選定において、中小企業が陥りやすい落とし穴と、その対策について解説します。
- 日本での成功体験にとらわれすぎない: 国内でヒットした商品でも、海外では評価されないことがあります。「日本の常識」が世界の常識ではないことを理解し、ゼロベースで市場のニーズを分析することが重要です。
- 現地文化・習慣への配慮を怠らない: 色の好み、パッケージデザイン、食品の成分表示、アレルギー情報など、文化や習慣によって受け入れられ方が大きく異なります。現地の視点を取り入れたローカライズ検討が必要です。
- 法規制・認証の確認を怠らない: これらは販売自体ができなくなる可能性がある重要な項目です。事前に専門家(弁護士、コンサルタントなど)に相談するなどして、必要な手続きや条件を正確に把握することが不可欠です。
- 物流・保管の制約を見落とさない: サイズや重量、形状、温度管理の必要性などにより、国際輸送や現地の倉庫での保管が困難、あるいは高コストになる商品があります。輸送ルートや現地の物流事情も考慮して商品を選定する必要があります。
- ローカライズコストの見積もり不足: 商品自体の改良、パッケージ変更、マニュアル翻訳などにかかる費用を軽視しないこと。特に技術的なマニュアルの翻訳や、現地の安全基準に合わせた仕様変更は、想定外のコストがかかる場合があります。
これらの注意点を踏まえ、多角的な視点から冷静に商品選定を行うことが、失敗のリスクを減らすことにつながります。
成功事例・失敗事例から学ぶ教訓
越境ECにおける商品選定の重要性を理解するために、成功事例と失敗事例から学ぶべき教訓を見てみましょう。
成功事例から学ぶ教訓:
- 日本の文化や高品質を強みとする商品: 抹茶関連商品、アニメ・キャラクターグッズ、高品質な文具、伝統工芸品、ユニークなアイデア商品など、日本ならではの魅力を持つ商品が海外で人気を得るケースが多く見られます。
- 現地の潜在ニーズに応える商品: 特定の地域の気候や生活習慣に適した商品、あるいは競合が手薄なニッチな分野の商品が見事に市場に受け入れられることがあります。例えば、ある中小企業の化粧品が、現地の特定の肌悩みに特化している点が評価された、などです。
- 徹底したローカライズを行った商品: 商品自体は同じでも、現地の言語、文化、商習慣に合わせてパッケージデザインやプロモーション方法を最適化した結果、成功につながった事例があります。
これらの事例から、自社の「日本ならではの強み」と「ターゲット市場のニーズ」の交差点を見つけること、そして必要に応じて適切なローカライズを行うことが重要であると学べます。
失敗事例から学ぶ教訓:
- 日本の流行をそのまま輸出し、ニーズがなかった: 日本で一時的に流行した商品を海外に持ち込んだが、現地のトレンドとは異なり全く売れなかった、というケース。
- 法規制をクリアできず販売停止: 事前の規制調査が不十分で、販売開始後に現地の法規制に抵触していることが判明し、販売停止や回収となったケース。
- 高額な送料や関税で価格競争に敗北: 商品単価が低いにも関わらず、国際送料や関税が高く、現地の類似商品と比較して価格競争力が全くなく、売れなかったケース。
これらの事例から、事前の市場調査、規制調査、コスト計算の重要性が改めて浮き彫りになります。安易な考えで商品を選定するのではなく、データに基づいた分析と慎重な判断が必要であることが分かります。
まとめ:商品選定は越境EC戦略の要
越境ECにおける商品選定は、単に「何を売るか」を決めるだけでなく、ターゲット市場の選定、販売チャネルの決定、マーケティング戦略、物流体制の構築、ローカライズの方向性など、その後の越境EC戦略全体を左右する極めて重要なプロセスです。
初めて越境ECに挑戦する中小企業経営者の皆様にとっては、不慣れな海外市場での商品選定は難しく感じられるかもしれません。しかし、ここでご紹介した基本的な考え方とステップを踏まえ、多角的な視点からじっくりと検討を行うことで、成功の可能性を高めることができます。
全てを自社で行うのが難しい場合は、越境ECの専門家やコンサルタント、貿易に関する支援機関(JETROなど)に相談することも有効な選択肢です。外部の知見を活用しながら、自社にとって最も適した商品を見つけてください。
商品選定は越境ECのスタート地点です。この最初のステップを戦略的に乗り越え、貴社の海外展開が成功することを願っております。