中小企業向け越境EC:サイト運用で必須の「データ分析」基本と活用ステップ
越境ECサイトの成果を最大化するために必要な「データ分析」の基本
越境ECサイトを公開し、海外への第一歩を踏み出された経営者の皆様。サイトは無事に立ち上がったものの、「公開後にどうすればもっと売上を伸ばせるのだろうか」「何が問題で、どこを改善すれば良いのか分からない」といった疑問をお持ちではないでしょうか。
越境ECは立ち上げがゴールではなく、むしろそこからが本番です。そして、運用・改善を効果的に進めるためには、「データ分析」が不可欠となります。データ分析とは、サイトを訪れる顧客の行動や傾向を数値データとして把握し、そこから課題を見つけ出し、改善策に繋げていく取り組みのことです。
感覚や経験だけでなく、データに基づいた意思決定を行うことで、限られた経営資源をより有効に活用し、リスクを抑えながら成果を最大化することが可能になります。この章では、中小企業の経営者の皆様が、越境ECサイトのデータ分析の基本を理解し、具体的な行動に繋げるためのステップを解説します。
なぜ越境ECサイトのデータ分析が必要なのか?
海外市場は国内市場とは異なる様々な特性を持っています。文化、習慣、言語、購買行動、決済方法の好みなど、考慮すべき要素は多岐にわたります。越境ECサイトは、これらの多様な顧客の接点となる重要なチャネルです。
データ分析を行うことで、以下のようなメリットが得られます。
- 顧客理解の深化: どのような国・地域からアクセスが多いのか、どのような商品に関心があるのか、サイト内でどのような行動をとっているのかなどを把握できます。
- 課題の特定: 顧客がサイトのどのページで離脱しやすいのか、購入手続きのどの段階で躓いているのかなど、売上を妨げている可能性のある課題を具体的に見つけ出すことができます。
- 改善策の立案: 特定された課題に基づき、サイトデザインの変更、商品ページの修正、プロモーション内容の見直しなど、具体的な改善策をデータに基づいて検討できます。
- 経営判断の精度向上: どの市場に注力すべきか、どの商品カテゴリーを強化すべきか、広告費をどこに投じるべきかなど、データは重要な判断材料となります。
- 投資対効果の測定: 実施した改善策やプロモーションの効果を数値で確認し、投資が適切であったかを判断できます。
このように、データ分析は越境ECサイトの継続的な成長のために欠かせない羅針盤のような役割を果たします。
まず見るべき基本的なデータ指標
データ分析と聞くと難しく感じるかもしれませんが、最初から全てのデータを網羅的に分析する必要はありません。まずは、越境ECサイトの状況を把握するために特に重要な基本的な指標から確認していくことをお勧めします。
代表的な指標とその意味、経営判断への繋がりは以下の通りです。
- セッション数(またはアクセス数):
- 意味: 一定期間内にサイトが訪問された回数です。ユーザーがサイトを訪れてから離れるまでの一連の行動を1セッションと数えます。
- 経営判断への繋がり: サイトへの関心度や集客の状況を示します。この数値が少ない場合は、集客(広告、SNS、SEO対策など)に課題がある可能性があります。
- ユーザー数:
- 意味: 一定期間内にサイトを訪れたユニークな(重複を含まない)ユーザーの数です。
- 経営判断への繋がり: サイトがどのくらいの人数にリーチできているかを示します。セッション数と比較することで、リピーターの割合などを推測できます。
- ページビュー数(PV数):
- 意味: サイト内のページが表示された合計回数です。一回の訪問で複数のページを見れば、そのページの合計数になります。
- 経営判断への繋がり: ユーザーがサイト内でどのくらい回遊しているか、複数のページに関心を持っているかを示します。PV数が少ない場合は、サイト構造が分かりにくい、コンテンツに関心を持たれていないなどの可能性があります。
- 平均セッション時間(または平均滞在時間):
- 意味: ユーザーがサイトに滞在していた平均時間です。
- 経営判断への繋がり: ユーザーがサイトコンテンツにどのくらい関心を持っているかを示唆します。時間が短い場合は、コンテンツの質、サイトの表示速度、情報へのたどり着きやすさなどに課題があるかもしれません。
- 離脱率:
- 意味: ある特定のページにアクセスしたセッションのうち、そのページを最後にサイトから離脱した割合です。
- 経営判断への繋がり: ユーザーがそのページに満足せず、サイトから出て行ってしまった割合です。特に商品ページや購入手続きページでの離脱率が高い場合は、そのページに重大な問題(情報不足、エラー、使いにくさなど)がある可能性が高いです。
- コンバージョン率(CVR: Conversion Rate):
- 意味: サイトにアクセスした全セッションのうち、目標として設定した行動(例: 商品購入、問い合わせ、会員登録など)を完了した割合です。(計算例: コンバージョン数 ÷ セッション数 × 100 %)
- 経営判断への繋がり: サイトがビジネス目標達成にどのくらい貢献できているかを示す最も重要な指標の一つです。CVRが低い場合は、集客したユーザーの質が低い、サイトの使い勝手が悪い、商品に魅力がない、決済方法が少ないなど、様々な要因が考えられます。
- 顧客単価(AOV: Average Order Value):
- 意味: 一回の注文あたりの平均購入金額です。(計算例: 総売上金額 ÷ 注文数)
- 経営判断への繋がり: 顧客が一度にどのくらい購入しているかを示します。この数値を上げるためには、関連商品の提案(レコメンデーション)、セット販売、一定金額以上での送料無料などの施策が考えられます。
まずはこれらの指標を定期的に確認し、数値がどのように推移しているかを把握することから始めましょう。
データ分析ツールの活用(Google Analyticsの活用)
これらの基本的な指標を確認するために、強力な無料ツールである「Google Analytics」の活用をお勧めします。Google Analyticsは、サイトへのアクセス状況、ユーザーの行動、コンバージョンに至るまでの経路など、様々なデータを収集・分析できるツールです。
Google Analyticsでできること(一部):
- どの国・地域からアクセスが多いか
- どのようなデバイス(PC、スマートフォン)から見られているか
- どのような経路(検索エンジン、広告、SNS、他のサイト)からサイトにたどり着いているか
- サイト内のどのページがよく見られているか、または見られていないか
- コンバージョン(購入など)はどのくらい発生しているか
- 購入に至るまでにどのようなページを経由しているか
導入にはサイトへのタグ設置などの専門知識が必要になる場合がありますが、一度設定すれば自動的にデータが蓄積されます。基本的なレポートを見るだけであれば、専門的な知識はそれほど必要ありません。まずはアカウントを作成し、サイトに連携するところから始めてみましょう。具体的な設定方法は、公式サイトや専門的な解説サイトを参照してください。
データ分析をビジネス成果に繋げる具体的なステップ
単にデータを「見る」だけでは、ビジネスの成果には繋がりません。見たデータを基に「考え」、具体的な「行動」に移すことが重要です。以下のステップでデータ分析をビジネスに活かしましょう。
- 目標を設定する:
- まず、越境EC事業全体として、あるいは特定の期間で、どのような状態を目指したいのか、具体的な目標を設定します。例:「今期中にコンバージョン率を〇〇%にする」「特定の国からの売上を〇〇%増加させる」「平均顧客単価を〇〇円アップさせる」など。目標は可能な限り具体的な数値で設定することが望ましいです。
- 現状のデータを収集・確認する:
- Google Analyticsなどのツールを使って、設定した目標に関連する指標の現状値を把握します。日々の変動だけでなく、週単位、月単位といった期間での推移を確認することが重要です。
- データを分析し、課題を見つける:
- 確認したデータが、設定した目標に対してどうなっているかを評価します。
- 「なぜこの数値なのか?」と考え、課題を深掘りします。
- 例:「セッション数は多いのにコンバージョン率が低い」→集客している層とサイトの内容が合っていない?サイトの使い勝手が悪い?商品価格が高い?
- 例:「特定の商品ページの離脱率が異常に高い」→商品情報が不足している?画像の質が低い?ページの表示速度が遅い?
- 例:「購入手続きページの途中で多くのユーザーが離脱している」→入力項目が多い?決済方法が少ない?送料が高い?エラーが発生している?
- このように、データは単なる数値ではなく、「ユーザーの行動の結果」として捉え、その背景にある理由を推測することが分析の鍵となります。
- 改善策を立案し、実行する:
- 見つけ出した課題に対して、具体的な改善策を検討し実行します。
- 例:CVRが低い場合→商品紹介文の見直し、魅力的な画像の追加、決済方法の拡充、購入ボタンの配置変更など。
- 例:特定のページの離脱率が高い場合→コンテンツの見直し、ページの表示速度改善、関連情報へのリンク設置など。
- 一度に複数の箇所を変更すると、何が効果があったのか分からなくなるため、可能であれば一つずつ、あるいは関連性の高い項目をまとめて変更し、その効果を測定できるように計画的に実行することをお勧めします。
- 見つけ出した課題に対して、具体的な改善策を検討し実行します。
- 効果を測定し、評価する:
- 改善策を実行した後、一定期間(例えば1週間〜1ヶ月程度)待ってから、再度データを確認します。実行した改善策によって、目標とした指標や関連する指標がどのように変化したかを測定します。
- 効果があった施策は継続・強化し、期待する効果が得られなかった施策については、別の改善策を検討するか、分析の精度を上げてさらに深掘りします。
この「目標設定 → データ収集 → 分析 → 改善策実行 → 効果測定」というサイクル(PDCAサイクルとも呼ばれます)を繰り返し行うことで、越境ECサイトは継続的に磨かれ、より高い成果を生み出すことが期待できます。
中小企業がデータ分析で直面しやすい課題と対策
データ分析の重要性は理解しても、中小企業の皆様が実践する上で、時間やリソースの制約からいくつかの課題に直面することが考えられます。
- 課題1:どのデータを見れば良いか分からない、見ても意味が分からない
- 対策: まずは前述の基本的な指標(セッション数、CVR、離脱率など)に絞って確認することから始めましょう。また、Google Analyticsなどのツールには、あらかじめ用意されたレポートや解説情報がありますので、それらを参考にしながら少しずつ理解を深めていくことが有効です。全てのデータを完璧に理解しようとせず、ビジネス目標達成に直結する指標から優先して見るようにしましょう。
- 課題2:分析する時間がない、担当者がいない
- 対策: 全てを社内で行う必要はありません。一部のデータ分析やレポート作成を外部の専門家や代行サービスに依頼することも検討できます。まずは簡単なレポート作成を依頼し、その結果を基に社内で改善策を検討するなど、外部リソースも活用しながら効率的に進める方法があります。
- 課題3:分析結果をどう改善に繋げれば良いか分からない
- 対策: 分析結果から見えた課題に対して、「なぜそうなるのか?」という疑問を繰り返し投げかけ、原因を深く探ることが重要です。それでも改善策が見えない場合は、成功している他社のサイトを参考にしたり、越境ECに詳しい専門家にアドバイスを求めたりすることも有効な手段です。また、小規模なテスト(A/Bテストなど)を行って効果を確認しながら進める方法もあります。
データ分析は一朝一夕に完璧になるものではありません。まずはできる範囲で始め、少しずつ慣れていくことが重要です。データ分析のスキルは、越境ECだけでなく、今後の事業展開においても必ず役立つ経営スキルとなります。
まとめ
越境ECサイトを成功に導くためには、公開後の継続的な運用と改善が不可欠であり、その羅針盤となるのがデータ分析です。本記事では、中小企業の経営者の皆様が知っておくべきデータ分析の基本的な指標、ツールの活用法、そして具体的なステップと課題への対策について解説しました。
データ分析は決して難しいものではありません。まずは基本的な指標の確認から始め、PDCAサイクルを意識しながら、一歩ずつサイトの改善に取り組んでみてください。データに基づいた意思決定は、越境EC事業の成長を加速させ、リスクを低減させるための強力な武器となります。ぜひ、今日から皆様の越境ECサイトでデータ分析を始めてみましょう。